経済学者の予測が驚くほどハズレる根本理由 ノーベル賞受賞経済学者による告白と解決策
ナラティブの感染を経済理論に組み込む必要がある。さもないと、経済変化の仕組みとしてきわめて本物で、きわめて明らかで、きわめて重要なものを無視したままとなってしまうし、また経済予測の決定的な要素も採り入れられない。
ジョン・メイナード・ケインズ:ナラティブ経済学者
1919年の著書『平和の経済的帰結』でケンブリッジ大学の経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、第1次世界大戦を終結させたヴェルサイユ条約が科している重い賠償金により、ドイツが深い遺恨を抱くと予測した。
終戦時にそんな予測をしたのはケインズだけではない。たとえば平和主義者ジェーン・アダムズは敗北したドイツ人に情けをかけようというキャンペーンを主導した。
だがケインズは、自分の議論を経済的な現実をめぐる議論と結びつけた。ドイツには本当に賠償金を支払う能力がなく、それをドイツ人に無理強いする危険性についてケインズの予測は正しかった。賠償金や、ドイツが戦争犯罪で有罪だと主張する条約の関連条項について、ドイツ人がどう解釈しそうかをケインズは予言した。
ケインズの洞察はナラティブ経済学のお手本だ。というのもそれは、人々が経済条件の中でヴェルサイユ条約の物語をどう解釈するかに注目しているからだ。それはまた予測でもあった。というのも1919年の外交政策の「安っぽいメロドラマ」の中で、来るべき戦争を警告するものだったからだ。
そうなれば、反動勢力と、革命という絶望的な痙攣との最終的な内戦を先送りできるものは、何もなくなってしまう。その争いに比べれば、かつてのドイツ戦争の恐怖など無の中にかき消えてしまうだろうし、だれが勝利するにしても、私たちの世代の文明と進歩は破壊されてしまう。
ケインズの言うとおりだった。第2次世界大戦は、20年後にも残る怒りの中で開始され、6200万人の命を奪った。彼の警告は経済学に根ざし、経済的な規模感と結びついていた。
だがケインズは今日の私たちが理解するような純粋経済学について話しているのではなかった。彼の、「復讐心」「革命という絶望的な痙攣」という用語は、人々の活動のもっと深い意味合いにまで到達するような、道徳的な基盤でいっぱいのナラティブを示唆している。
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