ワールドがリスク覚悟で「超格安店」を出す事情 出店拡大に踏み切るが「諸刃の剣」のジレンマも

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百貨店やSCなどで販売する主力のブランド事業の本格的な回復がいまだ見通せない中、店舗運営ノウハウの外販といった法人向けビジネスや雑貨業態の拡大など、新たな収益源の確立は喫緊の課題だ。その中でも、オフプライスは市場の成長性の高さから、業態拡大への社内の期待が大きい。

オフプライスが先行して定着したアメリカでは、専業最大手の「TJX」の売上高は4兆円(2019年度)を超え、2番手の「ロス・ストアーズ」も1.7兆円(同)とマーケットは巨大化している。

現在「アンドブリッジ」は郊外を中心に6店舗を展開するが、今後は出店拡大に踏み切る(記者撮影)

「日本のオフプライス市場はまだ黎明期。市場はこれから大きく成長していく」(松下社長)。流行をせわしなく追う傾向が薄れ、シーズンが過ぎた1~2年前の服でも満足する消費者が増えてきたことも追い風とみる。

首都圏などの大都市郊外を中心に現在6店舗(期間限定店含む)を展開するが、今後は出店のアクセルを踏み込む。2023年3月期までに20店舗に拡大し、その後も最大で毎期10店舗程度を出店する計画だ。現状の売り上げは非公表だが、中長期的には年間売上高100億円の規模に成長させるという。

悩ましいブランドイメージとの兼ね合い

とはいえ、「タケオキクチ」や「アンタイトル」など名の知れたブランドを展開する名門アパレルが、自ら「超格安店」とも言える業態を拡大するのは諸刃の剣でもある。

足元ではコロナ禍による外出自粛で衣料品需要の低迷が続き、各社が生産調整を進めても、売れ残る在庫の量は高水準が見込まれる。アウトレット以外でも、自身が運営する店舗で在庫品を処分できる選択肢を持つ意味は大きいだろう。

アンドブリッジでは自社ブランド品の割合は大きくないが、ブランドイメージの悪化につながらないよう注意も必要となる。ブランドとの合意のうえでタグを切り離して販売するオフプライスもある中で、タグを付けたまま売るアンドブリッジの場合はなおさらだ。

自社のブランドイメージに合わせた店舗作りを重視するアウトレットと比べ、オフプライスは自社製と他社製が混在するため、ブランドが本来持つ魅力を訴求した売り方も難しい。従来は百貨店などの店舗において定価、もしくは低い割引率で購入していた客が、たたき売りに近い価格でお気に入りのブランドが売られていることを知れば、顧客離れにつながる懸念もある。

最近ではアパレル各社は在庫の削減に注力し始めていることもあり、いかに商品を確保し続けるかも焦点となる。イメージを守るためにブランド側が販路を絞り、オフプライスへの商品供給量が減るリスクも拭えない。それだけに商品の調達力の維持もカギを握りそうだ。

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岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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