「関西の私大」が学生増で存在感を増している事情 背景には大学の「危機感の高まり」があった
さらにそうした全国的な将来予想に加えて、具体的にはもう一つ、近年における近畿大学のめざましい勢いが、産近甲龍と呼ばれる同グループのほかの3大学はもちろん、上位の関関同立、すぐ下の摂神追桃、さらにはそれに続く中下位大学にまで、大きな影響を及ぼしたように思われます。
ただでさえ関西圏では、パイが縮小していくという心配があるのに、学生数が3万4000人を超える大規模の近畿大学が、学生数と偏差値ランク(=募集力)をじわじわ伸ばしていた。
その影響は大きく、上位競合7私大はもちろん、近大に合格者を吸い上げられていく中下位大学もさらに身構えます。そしてその結果として、関西圏全域の学生争奪戦が全国より一足先に熾烈化していたのではないでしょうか。
なぜ近大はいち早く動けたのか
では近大は近大で、なぜ他校よりもいち早くこの時期に、これほど派手で大きな動きを始めたのでしょうか。『近大革命』(世耕石弘著、産経新聞出版)によれば、著者の世耕氏(現・経営戦略本部長)が近大に着任した2007年、父である理事長から「志願者を減らしたらクビだ」と宣告されたそうです。
「というのも、ピーク時の1993年度には12万人を超えていた総志願者数が06年度には7万人強にまで落ち込んでいたのです。日本一どころか、関西で3位です。しかも関西大学と立命館大学に大きく差をつけられた状態でした。父(世耕弘昭理事長)は『学生をうまく集めなければ、この先はない』と、大学がつぶれるくらいの危機感を抱いていたようです」(『近大革命』)
その宣告が契機となったのか、実際、近大は2011年に「近大空港マグロ」、2013年には「エコ出願」、2014年の「ド派手入学式」、2017年の「早慶近」など、話題となる広報を矢継ぎ早に仕掛けて、全国的にも知名度と存在感を高めていきました。
その間、2013年度入試で9万8000人の受験生を集めて関西でトップに、全国3位まで浮上します。さらには、2014年度には10万5000人の受験生を集め、ついに総志願者日本一を達成。その勢いは今日まで続いているのです。
ただし、こうした事例は、近畿大学だけに特有のものではありません。
前ページの図にも示しましたが、関西のいくつかの大学の志願者数の長期推移を確認すると、ここ数年、特に中位校の志願者数が顕著に増加していることがわかります。定員超過倍率規制の厳格化や2010年代前半の時点で高まった危機感から、似たような上昇トレンドを辿ってはいたようです。
整理すれば、来るべき「2018年問題」(2018年頃から18歳人口が減少する問題)による経営環境悪化に加えて、将来の関西圏の地盤と学生人口減への不安が重なり、関西では「大学が潰れる」という切迫した危機感がいち早く業界全体を覆っていた。それが競合大学同士の生き残り競争を熾烈化するという地域特有の流れに結びついていったように思われます。
結果、全国的にはこれから現実化してくるはずの大学業界の構造不況への対応が、関西圏では十数年ほど早く、東京や名古屋にも先んじて本格的に始まっていた、と著者は理解しています。
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