お金が「人の価値観を狂わせてしまう」明確な根拠 一見効果的な金銭的補助によって何が失われるか

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市場の役割を口にするだけで、もとからある意欲がかき消されることもある。あるオンライン調査で回答者に、もし日照りで共同の井戸の水が少なくなり、水不足に見舞われた4家族があって、そのうちの1家族が自分だったらどうするかを想像させた。

この実験のポイントは、水不足のシナリオを描くとき、半分の回答者に対してはもっぱら「消費者」という言葉を使い、半分の回答者に対してはもっぱら「個人」という言葉を使ったことだ。この1語だけのちがいで、回答者の反応にどんなちがいが生まれたか? 「消費者」と呼ばれた回答者は、「個人」と呼ばれた回答者に比べ、行動を起こそうとする責任感も、他者を信頼する気持ちも弱かった。

「消費者」と呼ばれると個人の責任感が消える

自分たちを消費者と考えるだけで、自己中心的な態度が生まれ、共有資源の枯渇という問題に直面しながら、団結できず、分裂してしまうようだ。地球の「供給源」と「吸収源」──水や魚から海や大気まで──に過剰な負荷をかけている21世紀の世界において、わたしたちが人類全体の課題にみんなで取り組もうとするとき、自分たちをどのようにいい表すかが、いかに重要かがここに示唆されている。

そうすると、がぜん「隣人」や「地域社会の一員」、「国家コミュニティ」、「世界市民」という言葉が、安全で公正な経済を築くうえで、きわめて貴重な言葉に見えてくる。

評価や価格、報酬、市場の利用がわたしたちの行動にどう影響するかを調べた研究からも、似た結果が出ている。タンザニアのモロゴロ周辺の複数の村の村民たちに、それぞれの村の小学校で、半日、校庭の草刈りをしてほしいと呼びかけた。

少額の報酬を提示した村では、報酬のことについては何も触れなかった村よりも、参加者が20%少なかった。そのうえ、報酬──標準的な1日の賃金額──を受け取った参加者のほとんどが、草刈りの終了後、作業にも報酬にも不満を述べたのに対し、お金のことはいっさいいわれなかった村の参加者はたいてい、村の役に立てたことへの満足感を口にした。

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