お金が「人の価値観を狂わせてしまう」明確な根拠 一見効果的な金銭的補助によって何が失われるか

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彼らが偶然明らかにしたのは、生徒の自尊心や親の責任感などの社会規範が、お金の介入によっていかに損なわれうるかということだった。お金が介入すると、それらの社会規範が労力への対価とか遵守への報酬とかいう市場規範に取って代わられてしまう。

哲学者マイケル・サンデルはまさにこのような影響に警鐘を鳴らし、現金を払うと、もとからある意欲やその意欲を支えていた価値観が損なわれると主張している。サンデルが例にあげているのは、テキサス州ダラスの学習到達度の低い学校に導入された「学んで稼ぐ」と呼ばれる制度だ。

この制度は6歳の児童に、本を1冊読むごとに2ドル与えるものだった。制度の開始から1年のあいだに、子どもたちの国語力には向上が見られた。しかし長期的に見たとき、そのようなお金は子どもたちの学ぼうとする意欲にどんな影響を及ぼすだろうか。「市場は一つの手段だが、清らかなものではない」とサンデルは指摘する。「どうしても懸念されるのは、子どもたちがお金をもらうことで、読書をお金を得る手段と考えるようになってしまい、その結果、読書そのものを好む気持ちが弱まったり、忘れられたり、失われたりすることだ」。

いったん社会規範が市場の規範に取って代わられたら?

そのような懸念があるにもかかわらず、社会の各分野で金銭的なインセンティブの利用はますます増えていて、わたしたちの市場での役割──消費者だとか、顧客だとか、サービス提供者だとか、労働者だとか──に関心が集中している。いったん社会規範が市場の規範に取って代わられたら、その影響を消すことはむずかしい。

1990年代にイスラエルのハイファでそれを示す実験が行われた。その実験ではまず、市内の10カ所の託児所で、子どもの引き取り時間に10分以上遅刻した親に対し、少額の罰金を科す制度を導入した。親の反応はどうだったか? 

遅刻は減るどころか、逆に、倍に増えた。罰金の導入で、遅刻に対する親たちの罪の意識が消えたせいだ。罰金は託児の延長に対する市場価格だと受け止められたのだ。しかし3カ月後、実験が終わり、罰金制度がなくなったあとも、遅刻する親の数は多いままだった。延長料金は課されなくても、罪の意識は戻ってこなかった。これはつまり、一時的な市場価格によって社会契約が損なわれたということだ。

「これまで市場以外の規範に従っていた生活の分野に、市場が入り込んでくるようになった。その結果、市場は市場で取り引きされる財を害したり、汚したりすることはないという通念は、いっそう信じられないものになっている」とサンデルは警告する。「市場は単なるメカニズムではない。なんらかの価値観を体現したものだ。だから、ときに、市場の価値観によって市場以外のたいせつな規範が締め出されることがある」

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