また、スタンションで仕切られたベルトの導線は、視覚障がい者用の誘導ブロックを通すため、ところどころ繋がっておらず、途切れている。このため、選手団が通った後すぐに一般客が同じ場所を通るという「入り交じり」が生じていた。
到着ゲート前にある交通案内所の受付の女性としばらく雑談した。十分に打ち解けてから「これで本当にバブルと言えるのでしょうか」と問うと、「紐一本の仕切りですからね。こんなに近くで同じ空気も吸っていますし」と心配そうな表情で話した。
この女性はモデルナのワクチンをまだ1回しか接種していないという。「こんな近くで働いているのに、ワクチンがまだ一回とは雇用者責任が問われますね」と問うと、女性は「ええ」と苦笑するばかりだ。
この受付女性が心配する理由はよく理解できるだろう。新型コロナはエアロゾル(空気中に浮遊する固体や液体の粒子のこと)によって感染することが分かっているからだ。感染症の専門家はウイルスを含むエアロゾルを吸い込みやすくなる3密(密閉、密集、密接)に注意するよう呼び掛けている。
本来は、水族館にあるような水槽で囲まれるような選手団専用の通路があればよいのだが、それは羽田空港では物理的に無理だ。
海外のスポーツイベントでもバブル方式は採用されているが、そちらはどうなっているのか。
今年1月にエジプトで行われたハンドボール男子の世界選手権が参考になる。朝日新聞の2月9日の記事によると、ハンドボールの日本代表団が「空路でカイロ入りすると、滑走路にはすでにバスが待っていた。数歩で乗り込むと、ホテルまで運ばれた」という。
「空港に着いてから、バブル以外の場所は、ほぼ踏んでいないですね」。ハンドボール日本代表の主将、土井レミイ杏利はこう明かしている。
日本の「バブル方式」はエジプトと比べて、あまりにも緩い。残念ながら、羽田空港関係者に感染者が増えているとの証言にも納得感がある。
大田区には保健所が1カ所しかない
夏休みや五輪を迎え、羽田空港以外でも人の移動や接触が増えている。お盆の帰省シーズンになれば人流は加速するだろう。
「人口70万人余りを抱える大田区には、保健所が1つしかない。PCR検査も感染経路の追跡も全然追い付いていない。猛暑による熱中症対策も大変だ。正直、オリンピックどころではない。過労などでメンタルがやられている医療従事者も多い」。前述の医師はこう強く訴えた。
医療提供体制が逼迫する中、こうした状況を直視せず、五輪を強行し続けるのは、無謀というほかない。その行為のツケを払うのは、現場の医療従事者であり、一般の国民だ。「何が何でも五輪開催」ではなく、人々の命と安全と健康が何よりも最優先ということを、日本政府と国際オリンピック委員会は本当に理解できているのだろうか。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら