続いて、バッハ会長のスピーチが刺さらなかった3つめの理由は、「絵の浮かばない抽象言葉」の羅列だったということです。
「連帯」ほど刺さらない言葉はない
スピーチで大切なのは「生きた言葉」です。
二流のリーダーがやりがちなのは、「命を失った抽象言葉」を羅列すること。このスピーチもまさに、その典型でした。「希望」「連帯」「平和」「不屈の精神」など、頭の中に、何のイメージも絵も湧かない、感情も奮い立たない言葉が続きました。
「連帯がなければ、平和はありません」
など、「連帯」という言葉が頻出したわけですが、まるで、社長室や校長室の壁に貼られた「標語」のような言葉が心に刺さるわけがありません。私のような中高年世代であれば、1980年代のポーランドの独立労働組合が思い出されるくらいです。
バッハ会長は日本人に向かって、こう言いました。
その後も、「感謝いたします」を連呼したわけですが、誰かがあなたに「感謝と敬意を表します」「感謝申し上げます」と言ったら、本心だと思いますか? 社交辞令だろうと感じますよね。
ちなみにこれは和訳の問題なのかと思い、英語の原文を見てみましたが、こちらも堅苦しい表現で、儀礼的な表現。ここで、心から自分の言葉で、コロナで苦しんだ日本人、全世界の人々の気持ちを推し量り、寄り添い、共感し、共感させることができていたなら、心象は大きく変わっていたでしょう。
「世界最高の話し方」を解説する連載記事でも、何度も申し上げている通り、コミュニケーションにとって何より大事なのは「共感」です。
「どんなことを言うのか」ではない、「どんな思い、感情を聞き手に残すか」。その部分がすっぽり抜け、心の針がピクリとも動かない内容だったのは極めて残念でした。
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