日経平均が下落でも「年末3万円超」は不変のワケ 海外投資家は今の日本株をどう見ているのか

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だからといって、今のところ政権交代に至ると考えている海外投資家はほとんどいない。だが、与党の議席減が、経済政策を含めて政策推進の障害になるとの懸念が抱かれ始めている。これは海外投資家が「菅政権が好ましい」と考えているかどうか、ということではない。やはり政治が不安定化することは株価の行方にはマイナスとなる、との解釈だ。

また、東京オリンピックの運営をめぐっては、感染症予防策や観客の取り扱い方針、加えて現場での日々のドタバタなどなど、さまざまな混乱が伝えられている。

コロナ禍の状況変化などがあり、すべて運営側の責任とするのも正しくないとは考える。だが、混乱の収拾がかなり現場に押し付けられている感もある。仮にコロナ禍がなく、通常の運営であったとしても、現場の「気働き」に頼り切っていたのではないか、との疑念がぬぐえない。

海外からの選手団に同行したスタッフからも不満が強いようで、確かに職責や手続きをきちんと文書化し伝達する「海外流」のやり方からすると、日本の「細かいところはよろしく」というやり方は、異星の習慣のようにも感じられるかもしれない。

実はこうした「現場力頼み」は、日本の通常の企業運営でもよく見られるように思う。「うちの会社は現場力が強い」と誇らしげに語る経営者や管理職がいるが、これはマネジメントの体たらくを現場が努力と根性でカバーしているということと同義ではないか。

現場のおかげで何とか企業活動が回っていることを反省せず、当然だと考えていては、いずれ行き詰まるとの危機意識がないのだろう。欧米企業のように、すべてマニュアル化し、職責を明確化するというやり方は、時として柔軟さを欠くかもしれないし、「すき間」にこぼれ落ちる業務が出てくるおそれはある。しかし経営層が職責を明確化せず、「現場力」に頼っていては、現場は非効率的な業務に忙殺されて疲弊するし、生産性は上がるまい。

こうした日本の経営の「情けなさ」(経営がすばらしい日本企業も少なくない)は、かなり以前から日本に造詣が深い海外投資家の間からは指摘がある。混乱が報じられると、彼らは「やっぱりね」と確信を深めるばかりだ。構造的な疑義が長期的な日本の株価の上昇力を阻害するおそれはぬぐえない。

日本株の上値追いにはなお時間がかかりそう

とすると、やはり日本の株価が上値追いの色合いを鮮明にするには、時間がかかるのだろう。上述のように非製造業の収益改善の明確化にはまだ時が必要だという点もあるし、東京オリンピックや総選挙を過ぎないとさまざまな不透明感が薄れにくい、ということも指摘できる。

今後、東京オリンピックでさらに運営上の問題が噴出するかもしれないし(しないかもしれないが)、選挙の結果、やはり与党が議席をかなり減らすかもしれない。

それでも、不透明感が強く市場に残るより、よくも悪くも結果が確定することのほうが、投資家は動きやすくなるだろう。また、大きなイベントをいくつか過ぎれば、投資家の注目が景気や収益の動向に向かう展開もありうる。

世界経済や企業収益の持ち直し基調を踏まえると、大きく国内株価が崩れ落ちるとも予想しがたい。当面の株価動向は、短期的な振れを別とすれば、基調として大きく下落も上昇もしない可能性が高い。しばらく投資家に求められるものは「忍耐」なのだろう。「日経平均の3万円超え」を買い持ちのまま、ずっと待つ必要があると考える。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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