アマゾンが会議でパワーポイントを使わない理由 ナラティブを書く「暗黙知」の顧客視点が強み

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現代は「VUCA時代」(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高い時代)といわれる。過去のデータ分析にもとづく計画がトップダウンで下りてくる分析的戦略では、現場で計画と現実の乖離が起きて、社員は疲弊する。

一方、ナラティブ・ストラテジーでは、取り組みに関わる1人ひとりが、流動的な現実に対応して、自律分散的に判断し、物語を紡ぐ。その際、共感の力が大きな推進力となって、論理だけでは動かせないものを動かし、分析だけでは越えられない壁を突破する。

ユーザーが「自分ゴト」と受けとめる

本田氏によれば、企業サイドのストーリーも、ユーザー(生活者)が主人公として加わった瞬間、「わたしが主役のストーリー」(=ナラティブ)に拡張し、「自分ゴト化」し、共感が増して、ずっと長い間記憶にとどまるという。

例えば、前出のアマゾンで広報責任者を務めていた小西みさを氏が著書『アマゾンで学んだ! ストーリーが9割』(宝島社)の中で、次のようなエピソードを紹介している。

足が日本人女性の平均サイズで、商品の靴の履き心地などをモニターする社員がいた。その社員が実際に商品を試し履きして「足幅が狭い」「サイズがやや小さい」といった商品ごとの特徴を精緻に入力し、そのデータを商品ページで表示しているという。

ユーザーによる社内見学ツアーの際、「満足度を高めるためにここまでやっている」ことが伝わるナラティブの目玉として、通称「シンデレラ」と呼ばれていたその社員を登場させた。

共感リレーのアンカーであるユーザーはシンデレラからバトンを受け取り、その姿に自分を重ね、自分ゴトとして受けとめる。

顧客とどう向き合うかというパーパスを明確にし、トップ以下、第一線にいたるまで、意識のなかにエア・カスタマーの席を持ち続ける。そんなナラティブカンパニーの時代になってきた。

勝見 明 ジャーナリスト

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かつみ あきら / Akira Katsumi

1952年神奈川県生まれ。東京大学教養学部中退。フリーのジャーナリストとして、小売からメーカーまで、企業の成功事例を数多く取材。経済・経営分野で執筆・講演活動を続ける。専門はイノベーションを生む組織行動、リーダーシップ論。主な著作に『共感経営』(共著、日本経済新聞出版)、『新装版 鈴木敏文の統計心理学』(プレジデント社)などがある。

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