アマゾンが会議でパワーポイントを使わない理由 ナラティブを書く「暗黙知」の顧客視点が強み

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「時間」はどうか。成長はつねに未来に向けて現在進行形になる。

「舞台」については、動物アレルギーの人やペットを飼えない状況の人も“ペット”とともにある暮らしが可能になり、「社会全体」に広がる。

そして、「ともに成長する」という「感動」の物語はソニーのaiboとオーナーによって共創される。ここに物語的な共創構造としてのナラティブを見ることができる。「企業やブランドのパーパスはナラティブによって実現される」と本田氏が記すのはこのことをいうのだろう。

アマゾンではパワポは使わない

『ナラティブカンパニー』では、顧客(生活者)に対するナラティブ・アプローチの事例の数々が紹介されている。

例えば、冷凍食品に対する「手抜き」という、一般社会のネガティブなパーセプション(認識)に対し、味の素冷凍食品の担当者が「冷凍餃子を使うことは、手抜きではなく“手間抜き”です」とSNSに投稿したことから始まる一連の取り組み。目的はパーセプションチェンジだ。

あるいは、パーソナルモビリティ(1人乗りの乗り物)を開発するWHILL(ウィル)というベンチャー企業が、車いすに対する既存のパーセプションの壁を破り、「誰もが乗りたくなるような革新的なパーソナルモビリティ」として再定義しようとした試み……等々。

これらの事例については、本田氏自身が東洋経済オンライン(「冷凍餃子の「手間抜き論争」がバズった理由」、「車椅子が「かっこいい乗り物」へと変わる理由」)で紹介されているので参照されたい。ここでは世界中でビジネスを展開する多国籍大企業アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)の例を紹介しよう。

アマゾンは、「地球上で最もお客様を大切にする企業になること」を標榜する。会議用を含む社内文書も、箇条書きになりがちなパワーポイントは使わず、1~6ページ程度の文書で、「未来の顧客」にどんな価値を提供するか、整合性のあるナラティブが求められる。

目の前に顧客が座っていると想像し、たとえ売り上げが上がる施策であっても、顧客にとってマイナスにならないか、利便性が失われないか、徹底して議論する。

それを象徴するのが「空席のイス」だ。

アマゾンの社内会議では必ず、空席が1つ設けられる。会議が顧客起点の発想で意思決定しているか、自問する環境をつくるための「エア・カスタマー」の席だ。アマゾンはビジネスのあり方そのものがナラティブなのだ。

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