ネスレ日本、コーヒー業界団体脱退の真相 「これはもうインスタントコーヒーじゃない!」

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これについてネスレ日本・高岡浩三社長兼CEOは、昨年9月の「週刊東洋経済」のインタビューで、「インスタントという名称ではニセモノっぽく聞こえる。インスタントは定義としてお湯で完全に溶けるものをいうが、われわれはレギュラーコーヒーの豆を入れ込むなど技術革新している。単にレギュラーとインスタントの粒を混ぜ合わせたのではない」と反論していいた。

ただ、「レギュラーソリュブルコーヒーの成分の9割以上はインスタント。レギュラーコーヒーが多ければもっと粉末が残るはず」(業界団体関係者)という声もあり、名称の妥当性の議論が紛糾していた。

「レギュラーソリュブル」の使用やめない

ネスレ日本の渡辺正人常務(右)は脱退を決めた理由について「独自路線を歩むほうが新しいテクノロジーを幅広く伝えられる」と説明

ネスレが4団体の退会に踏み切るきっかけとなったのは6月、全日本コーヒー公正取引協議会が「一般消費者が誤認するような表示は不当表示に当たる」旨を盛り込んだ公正競争規約改訂案を採択したことだ。

改訂案では、「インスタントコーヒー(レギュラーコーヒー入り)」というように、使用量の多い方の名称にするように定めた。また、「レギュラーソリュブルコーヒー」は不当表示に当たり、名称だけでなく広告表現としても使用を認めない見解を示した。これを受けネスレは「独自路線を歩む方が新しいテクノロジーをより幅広く訴えられる」(渡辺常務)と、退会を決めた。

ネスレは今後、法的拘束力のない業界自主ルールではなく、JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)を順守した表示を行うとしている。JAS法は加工食品の表示方法について、「その内容を表す一般的な名称を記載すること」と規定している。「レギュラーソリュブル」が「一般的な名称」に該当するかについて、「消費者庁に問い合わせたが答えがない」(全日本コーヒー協会の西野専務)ため、議論の決着は得られていない。

ネスレがここまで名称にこだわる背景には、インスタント市場の縮小がある。2001年の国内におけるインスタントの生産量は9.6万トンだったが、13年には9.2万トンに減少。コーヒーの飲用機会が多様化していることが原因だ。こうした中、ネスレは近年、専用什器をオフィスに広げる取り組み「ネスカフェアンバサダー」や、喫茶店に業務用マシンを提供する「カフェネスカフェサテライト」を推進、家庭外需要を広げている。「脱インスタント」も環境変化への対応の一環とみられる。

業界から孤立してでも守りたかった「レギュラーソリュブルコーヒー」という表記でシェアを伸ばせるのか。ネスレの正念場は続く。

麻田 真衣 東洋経済 記者
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