ソファーで寝る女性から見えた認知症ケアの課題 2025年には高齢者の約5人に1人がなると推計
阿久根さんが理事長を務める法人でも、上述した内容は当然のものとして重視している。しかし、現在阿久根さんらが用いるケアメソッドを確立する研究のさなか、ケアの基本的な考え方が「いかに私たちの常識に当てはめたところで片付けられていた」かがわかったのだという。
そのことを気づかせてくれたのは、ホームの女性入居者だった。
認知症を患うその女性は、スプーンや箸を使うことなく手で食事をしていた。阿久根さんらは「認知症になる方でも尊厳を持って箸であったりスプーンをもって食べてほしい」との思いから、女性に箸やスプーンを持たせようとするが、すぐに置かれてしまう。持たせては置かれるを繰り返すうち、徐々に女性は食事をとらなくなっていった。
「この状況について原点にかえって考え、もう一回本人のしている行動を肯定してみることにしました。受け入れると言いながら、もしかしたらこの方のしていることを我々は否定してきたのではないか、と」
女性に訪れた変化
阿久根さんらは女性に箸やスプーンを持たせようとすることをやめ、手づかみで食事をすることを肯定した。すると女性の食事量はもとに戻り、ニコニコしながら美味しそうに食事をするようになった。
「ご飯はスプーンや箸を持って食べるというのは我々の常識。認知症になってもこれに戻してあげることが我々の優しさであり支援だと思っていました。
でも、もしかしたらそれが通用しなくなっている方に我々の常識を押し付けることは、あまりに過酷ではないのか。そのことを教えられました」
またこの女性は夜、部屋から出てきてソファーで寝てしまうということがあった。スタッフは風邪を引かないように、疲れが取れるようにと部屋のベッドに誘導するが、数分するとまた出てきてしまう。阿久根さんらはまたここでも原点に立ち返った。
これまでの生活履歴を調べると、女性はもともと看護師で夜勤も多かったという。
「認知症というのはある意味未来に進まず、過去に戻っていくんです。その方はどうも看護師時代に戻っていらっしゃるような、そんな感じでした」
施設スタッフの交代時の申し送りが行われる場にも、女性はいた。通常であればプライバシーの観点から入居者が居合わせることはないのだが、女性がかつて看護師だったことがわかってからは、その場にあえていてもらうようにしたのだという。
「そうしたら非常に表情が良くなってご機嫌で。誰かの車椅子を押されるようになったりと、変化があらわれたんです」
この二つの出来事から、阿久根さんらは本人の行動の意味をどう理解するか、またどう肯定するかを常に考え続けている。
■リディラバジャーナル関連記事
・「寄り添う」とはどういうことか――認知症に必要なケアのあり方とは(後編)
・まちの中に溶け込んで住民を元気にする——いまコミュニティナースが必要とされる理由(前編)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら