専門家ですら勘違い「アップルストア」成功の真実

革新的な店舗だったから売れたわけではない

さらに重要なのは、彼が犯したミスは例外的なものではないことだ。これは、リーダーを予測可能だが間違った方向に進ませる何度も繰り返されるエラーの典型である。したがって、私たちは、それらを例外として片づけるのではなく、シンプルにこう自問すべきだ。

「厳選されたチームに囲まれ、実績のある組織を率い、広く称賛されている意思決定者が、私たちには雑に思えるトラップになぜ陥ったのか」

それに対するシンプルな答えは、「素晴らしいストーリーに心を奪われると、確証バイアスが抑えられなくなる」ということだ。

アップルストアは、最高の立地、ユニークな店舗設計、一流の顧客サービス、そして技術的革新(レジで行列させないなど)によって、小売業界の常識を覆した。ジョブズの影響はあったものの、コンセプトは明らかにジョンソンの発案によるものだった。

だが、別の解釈も可能だ。アップルストアの成功の要因を、その革新的な設計(と設計者)にしてしまうと、それ以外の重要な要因を忘れてしまうことになる。それは歴史上、最も成功した3つの製品だ。

ストアの売り上げの成長率をざっと見るだけで、自らの思い込みを正すことができる。2001年の第1号店のオープンは革新的なイノベーション、iPodの発売と同時だった。2008年にiPhoneが登場すると、アップルストアの売り上げは50%跳ね上がった。その後の1年間は横ばいだったが、2010年にiPadが発売されると、売上高は急増した。

ごく普通の家電量販店を設計しても売れた

ロン・ジョンソンがもっと凡庸な人物で、彼が設計したアップルストアが、ごく普通の家電量販店だったとしよう。それでもアップルストアは、小売り流通の歴史における最大の成功の1つになっていただろうか。

『賢い人がなぜ決断を誤るのか?』(日経BP)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

そこでしか買えないアップル製品への旺盛な需要を考えると、ほぼ確実に成功していただろう。

この見方は特に独創的なものではない。小売店が成功するかどうかは扱う商品によって決まるというのは、誰にでもわかることだ。

J.C.ペニーの物語を読んだとき、あなたはそれに気づいただろうか。ジョンソンがアップルストアでの成功をJ.C.ペニーで再現しようとしたのは愚かだ、とあなたは思っただろう。しかし、そもそもアップルストアの成功が彼のおかげかどうかはわからないと、あなたは考えただろうか。

私たちはつねに、自分でも気づかないほど自然に、成功(あるいは失敗)の原因を特定の個人、その人の選択、その人の個性に求め、それ以外の状況に目を向けようとしない。これこそ、私たちが最初に犯しやすいミス、すなわち「帰属の誤り」である。

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