専門家ですら勘違い「アップルストア」成功の真実 革新的な店舗だったから売れたわけではない

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革新的な設計のアップルストア(写真:ViewApart/iStock)
人は必ずしも合理的に行動しないことが、行動科学や行動経済学などで解き明かされています。判断をゆがませる正体は「バイアス(思い込み)」です。バイアスは正しい意思決定の妨げになり、ビジネスの重要な局面でも、実際に多くの失敗が起きています。実はバイアスの罠に落ちるのは、本人の能力が低いからでも、注意散漫が原因でもありません。専門家をはじめ、非常に優秀な人たちであっても、同じようなパターンでこの罠に落ちているのです。
今回は2020年に経営破綻したアメリカの大手百貨店J.C.ペニーでの実際に起こった例を引き合いにして、経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で、現在はフランスのビジネススクールであるHEC経営大学院教授を務めるオリヴィエ・シボニー氏が解説します。
※本稿はオリヴィエ氏の新著『賢い人がなぜ決断を誤るのか?』から一部抜粋・再構成したものです。

アップル出身者に経営を託したJ.C.ペニー

2011年、約1100店舗を運営していたアメリカの大手百貨店J.C.ペニー(2020年に経営破綻)は、旧態依然とした経営に活力を注ぎ込んでくれる新たなCEOを探していた。取締役会は、非の打ちどころのない経歴を持つ救済者を見つけた。ロン・ジョンソンだ。

小売業界の寵児であるジョンソンは、米大手スーパーのターゲットで経営改革に成功したが、彼の名声を世に知らしめたのは、(スティーブ・ジョブズとともに)アップルストアを創設・展開して、デジタル製品の販売に革命をもたらし、小売史上で最も驚異的な成功を収めたことだ。

きっとジョンソンは、アップルで達成したような素晴らしい結果を出してくれる。誰もがそう信じた。

CEOに着任したジョンソンの戦略は基本的にアップルストアでの成功にヒントを得たものだった。つまり、革新的な店舗設計と、新規の顧客を引きつけるための新たなエクスペリエンスの提供だ。

アップルストアのときは「ブランド力」が成功の原動力になったことから、大手ブランドと高額の独占販売契約を結び、部門ではなくブランドごとに店舗を再編していった。また、アップルが巨費を投じて豪華な店舗をつくって商品を展示していたのにならい、費用を惜しまず店舗デザインを一新し、新たにブランド名を「jcp」に変更した。

また、J.C.ペニーが力を注いでいたバーゲンセールや割引クーポンを廃止し、「エブリデイ・ロープライス」と、変動幅が緩やかな月間売り上げを目指した。これは固定価格、セールスなし、割引なし、というアップルの基本方針を真似たものだ。

さらに彼は、J.C.ペニーの経営陣が改革に精力的に取り組まないことを恐れて、取締役の大半をアップルから呼び寄せた幹部に入れ替えた。

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