専門家ですら勘違い「アップルストア」成功の真実 革新的な店舗だったから売れたわけではない

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この戦略は悲惨な結果に終わった。常連客だった中高年女性にとって、その店はもはやJ.C.ペニーではなく、彼女たちを引き寄せていたクーポン券も廃止されていた。また、ジョンソンが新たな店「jcp」で魅了しようとした若者は、その店に何の魅力も感じなかった。

2012年末までに売上高は25パーセント減り、コスト削減のために2万人を解雇したものの、年間赤字額は10億ドルに迫った。株価は55パーセントも下落した。

ジョンソンが指揮を執った最初の1年は、最後の1年になった。着任から17カ月後、同社の取締役会はついにこの実験を打ち切り、ジョンソンを解雇して、CEOに前任者を再雇用した。復帰したCEOは、ジョンソンが変えたことをすべて元に戻すために全力を尽くした。

失敗はリーダーのミスのせいなのか?

救世主が現れ、既存の常識やルールを覆して見事な成功を収めるストーリーほど、魅力的な話はない。ひとたびこのストーリーに心を奪われると、取締役会(それにCEO自身)は、その戦略が失敗しつつあるというサインをことごとく無視するようになる。それどころか、最初の思い込みを裏づける証拠をあちこちで見つける。

なぜなら、確証バイアスの力が働くからだ。確証バイアスとは、自分の考えを支持する情報を無意識のうちに集め、反証となる情報は無視しようとする傾向のことだ。

もし自分がJ.C.ペニーの役員だったら、ジョンソンの提案を信じることはなかっただろう。この役員たちはどうかしている。失敗したのは無能で傲慢だったからだ──。

私たちがそう考えるのも無理はない。船が難破したら、責められるのは船長だ。経営誌はつねに、大企業の失敗をリーダーのミスのせいにする。通常、その原因とされるのは性格の欠点だ。高すぎるプライド、個人的な野心、うぬぼれ、誇大妄想、無反省、そして、強欲さ。あらゆる大惨事を個人のミスのせいにすれば、大いに気が休まる。

だが残念ながら、それは間違いだ。まず明白なことから述べよう。ここで論じているリーダーは愚かではない。アップルを去るときのロン・ジョンソンを、マスコミは「謙虚で独創的」「傑出した存在」「業界のアイコン」と絶賛した。それを裏づけるかのように、彼がJ.C.ペニーのCEO就任が発表されると、株価は17パーセントも上昇した。

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