「大き過ぎてつぶせない」の急転換はパニック招く 習近平政権が直面するかくも深きジレンマ
中国当局が進める本土企業のレバレッジ削減と規律の植え付けに向けた取り組みによって、12兆ドル(約1330兆円)規模の本土クレジット市場は変貌を余儀なくされている。
負債圧縮に向け投資適格級企業にも新たな社債発行を許さず
中国企業の中でも特に起債が活発だった発行体の1社は、この1年5カ月にわたりドル建て債を1本も発行できず、期間としては2013年以来の長さだ。投資適格級の信用格付けを受けているはずの政府系複合企業1社は綱渡りの資金繰りを余儀なくされ、国の支援が試される形となっている。
UBSグループやゴールドマン・サックス・グループのアナリストは、今年のデフォルト(債務不履行)が230億ドル超に膨らみ、記録的なペースとなる中で、「大き過ぎてつぶせない」との考えはもはや中国国内では通用しないと指摘する。
当局は景気回復と金融市場の安定という機を捉え、企業セクターの体質改善に乗り出している。その結果、リスクが織り込み直されており、債務をてこに一部の企業を危険な規模にまで膨張させた事業拡大を抑止するとみられる。企業の肥大化は金融システムに対する脅威であるだけでなく、習近平国家主席の権力掌握への挑戦にもなっていた。
一歩間違えれば自ら危機の引き金を引くことに
ただ、習主席が抱える頭痛の種は、政府保証に対する投資家の信頼を損ねれば、自ら防ごうとしてきた危機の引き金を引くことにもなりかねないことだ。
国有の不良債権処理会社、中国華融資産管理や不動産開発の中国恒大集団など巨額の負債を抱えた企業に対するモラルハザード(倫理観の欠如)に終止符を打つことができれば、長期的には金融システムをより強靱(きょうじん)にできるが、大規模なデフォルトが発生すれば、短期的に激しい痛みは避けられない。この数十年にわたり中国指導部を悩ませてきたジレンマだ。