欧州復興債は「新たな安全資産」として歓迎される 「欧州合衆国」へ向けた大きな第一歩となるのか

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すでに欧州委員会はコロナ禍の雇用維持を企図したプログラムである「緊急時の失業リスク緩和のための一時的支援策(SURE:The temporary Support to mitigate Unemployment Risks in an Emergency)」の資金として900億ユーロのソーシャルボンド(SURE債)を発行している。「社会問題解決のための資金」という時流に叶った発行方式もさることながら、「欧州委員会発行の債券」という事実が評価ポイントであろう。

NGEU債の発行予定額はSURE債(総額1000億ユーロ)の8倍であり、年限も長期間にわたる。また、SURE債同様、NGEU債も、発行総額の約30%に相当する2500億ユーロが環境債(グリーンボンド)で発行される予定であり、これにより「金融市場における最大のソーシャルボンド発行体になる」と欧州委員会は標榜している。

ソーシャルボンドはESG債、サステナブル債などといろいろな呼称があるが、要は環境分野で主導権を握り、規範を作っていきたいEUとして、政治的な思惑を大いに含んだ財政計画であることもポイントである。昨今のESG礼賛ブームへの賛否はさておき、現状を前提とすれば、「欧州委員会の発行するソーシャルボンド」は引く手あまたと予想する。

規模はアメリカ国債の半分以下という現実

もちろん、世界で最も流動性に優れ格付けも高いアメリカ国債と、生まれたばかりのNGEU債を比較するのは時期尚早ではある。

政府債務残高(IMF<国際通貨基金>の2020年末データ)をラフに国債市場の規模と見なして比較した場合、ドイツ、フランス、イタリアの3大国にNGEU債の発行総額(8000億ユーロ≒9760億ドル、1ユーロ=1.22ドル)を乗せても約10兆ドル。アメリカの半分以下であり、日本と比べても小さい。ユーロ圏GDP(国内総生産)に対して60%程度の金額であり、単一通貨導入のためのマーストリヒト基準の財務についての制約から逸脱していないことがわかる。

EUにおける安定・成長協定のような財政出動に関する制約がユーロ圏経済および単一通貨ユーロの発展をむしろ妨げているとの論調は根強い。今回のコラムでは財政出動の規模に関して是非を論じるつもりはないが、ユーロ圏としては「国債を発行させない」仕組みを整えることに執心してきた歴史があるので市場規模が小さいのは致し方ないとも言える。

次ページ恒久化議論は気の長い話となるが…
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