韓国の民主化「栄光の6月」を台湾の学生が学ぶ 1987年以降の民主化の過程をともにする韓国と台湾

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李韓烈氏の犠牲は、民主化運動を推進する大きな力になった。彼の葬列には多くの市民が参列した。「李韓烈記念館」には、コロナ禍とはいえ、連日多くの若者が訪れる。「李韓烈さんは普段、どのような考えを持って運動をしていたのか」と台湾の学生からの質問に、李館長は「彼は普段から2つのことを考えながら生きていたようだ」と答えた。

李韓烈氏の遺影を胸に、警察と対峙する学生運動家(写真・朱立熙)

その1つは、「恥ずかしさ」。もう1つは「ともに」。恥ずかしさとは、李韓烈さんが生まれた全羅南道は、1980年の光州事件の舞台となった光州市がある。李韓烈氏は「光州に生まれたのに光州事件のことをよく知らない」といつも嘆いていたという。この事件は全斗煥をはじめ軍部のクーデターに反対した市民を、銃で鎮圧した韓国現代史の最大汚点とも言われる事件であり、現在も真相がよく解明されていない事件だ。そんな事件なのに何も知らない自分が恥ずかしいとこぼしていた。

民主主義は努力しないと劣化してしまう

そして「ともに」とは、民主化もそうだが、自分で考えても実現することは少ない。でも、みんなに自分の考えをぶつけ、共感を求めていきながらともに協同していくことで何事も成し遂げられるという信念を持っていた人物だったということだ。

そんな彼がもし現在も生きていたら、何になっていただろうか。そんな質問に李館長は、「彼は経営学科の学生だったので、もっと勉強して会社の経営者か、あるいは学者になっていたのでは」という。彼とともに民主化闘争を戦った同士の中には、現在韓国政界の主流を占めている人物がいる。「彼は政治家にはならなかっただろうか」という質問に、「政治家となった人は学生運動の中でもごくわずかです。当時の学生たちは卒業後それぞれの職業に就き、今でも自分の仕事に誇りを持ち、良心に従いながら生きています」と李館長は答えた。

李館長は最後に、台湾の学生にこう訴えた。「記念館を訪れ、李韓烈さんのことを知ってもらうことで、6月民主抗争、ひいては韓国の現代史を考えることになります。民主化、民主主義は、一定のレベルに来てそのまま放っておくと、だんだんと劣化してしまう。民主主義のレベルを保つには、維持する努力、さらに向上させていく努力が必要です。そのために、李韓烈さんの生き様を知り、韓国の民主化運動がどう行われたかを知り、これから民主主義を高めるためにどうしたらいいか、そう考えるきっかけを記念館が担うことになればと思っています」。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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