韓国「徴用工裁判」、司法判断はなぜ分かれたか 下級審に「国際派」判事、見えぬ混迷の打開策

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その理由として登場するのがウィーン条約に書かれている「禁反言の原則」だった。国家間に合意があって、他方がそれを信用して行動した時に、もう一方の国が合意に矛盾する主張をすることを禁じるという原則だ。

日韓間には慰安婦合意があり、日本政府はそれに従って10億円を拠出するなどの対応をしている。にもかかわらず韓国がそれを無視して賠償金支払いを命じることは、禁反言の原則に違反するという意味だろう。

韓国メディアはキム判事について、ドイツ民事訴訟の論文を書くなど国際派であり、党派性のない人物だと紹介している。前任者の判決を国際派判事が就任直後に否定したということになる。

外交の基本原則を説いたソウル地裁判決

国際派はキム判事だけではなかった。4月21日には、同じソウル中央地裁で第2次慰安婦訴訟の判決が出た。1月の第1次訴訟とほぼ同じ内容の訴訟であるにもかかわらず、判決は一転して日本政府の主張を認め、「日本政府は訴訟の対象とならない」と原告の請求を却下したのだ。

その上で日韓間の慰安婦合意の有効性を認め、「外交交渉は必然的に相手があり、韓国の立場は相手国が受け入れない限り、すべて反映できるものではない」という外交の基本原則を説いている。

裁判長のミン・ソンチョル判事は、2月の人事異動で留任していた。第2次訴訟は当初、1月13日に判決を予定していたが、直前になって延期を決定。1月8日に第1次訴訟の判決が出たばかりだったため、さすがにその直後に正反対の判決を出せば社会の混乱を招くだけと考えての延期だったのだろう。

6月には再びソウル中央地裁のキム判事が脚光を浴びることになる。6月7日、元徴用工の損害賠償請求訴訟で、すでに確定している大法院の判決を全面的に否定して原告である元徴用工の訴えを却下したのである。

この判決にも反禁言の原則が登場する。日韓の間には請求権協定など各種条約や合意がある。日韓両国が「この事件に関連して行った言動等は、少なくとも国際法上の『黙認』に該当し、それに背馳する発言や行為は、国際法上の禁反言の原則に違背する可能性が高い」としている。従って原告の請求を認めれば「国際法に違反する結果を招き得る」というのである。

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