韓国「徴用工裁判」、司法判断はなぜ分かれたか 下級審に「国際派」判事、見えぬ混迷の打開策

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しかし判決文は、2015年の合意が国会の同意や憲法上の批准手続きなどを経ていないことや日本の国家責任が示されていないことを理由に、「いかなる法的拘束力もない」と言及している。要するに憲法違反とは言わないが、法律的に何の意味もない合意だと否定したのだ。これも外交努力を無視した韓国国内の論理だけに依拠した判決だ。

さらに2021年1月には、元慰安婦が日本政府に賠償金支払いを求める第1次慰安婦訴訟の判決がソウル中央地裁で出された。他国の行為を別の国の裁判所が一方的に有罪とすることは認められないという国際法上の慣習「主権免除」を認めるかどうかが焦点だった。判決は大方の予想に反して主権免除を認めず、日本政府に賠償金支払いを命じた。

「慰安婦問題は反人道的行為であり、国際法で逸脱を許されないとされる強行規範に違反するから、主権免除は適用されない」という理由だ。一見、国際法に準じているように見えるが、強行規範の解釈は韓国独自のもので国際法の慣例とは異なっている。さらに、「慰安婦問題で日本政府に何もできないとなれば、韓国の法秩序の理念に合致しない」という韓国独自の事情も付け加えられていた。

判決に文大統領も危機感

国内派による判決の共通点は、植民地支配は違法であり、それを前提としていない日韓基本条約や協定は元徴用工や元慰安婦の損害賠償請求権とは関係がないということだ。つまり、日韓両国政府のこれまでの交渉経緯や合意、その後の対応などの外交的成果を完全に否定している。さらに、こうした訴えが認められなければ違憲であるという主張でも一致している。

外交的成果をことごとく否定するような判決が相次いだことで、さすがに文在寅大統領も危機感を覚えたのか、1月の第1次慰安婦訴訟の判決後に、「正直、困惑している」「慰安婦合意は日韓両国間の公式合意だ」と発言している。かといって、硬直化した日韓関係の打開のために積極的に動くわけでもない。

国内派による判決が続くのかと思われたが、転機は直ちに訪れた。2月初めに裁判所の人事異動が行われ、1月の慰安婦判決を出したソウル中央地裁の裁判官3人が全員、他の裁判所に移ったのである。後任にはキム・ヤンホ判事らが任命された。この人事にどういう意味、意図があるのかなど知る由もないが、キム氏の動きは速かった。

3月29日、キム氏が部長判事となったソウル中央裁判所民事34部は、前任の裁判官らが出した1月の判決で日本政府に支払いを命じた訴訟費用の強制執行は国際法違反に当たるとして、「日本政府が負担する訴訟費用はない」という決定を下した。

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