学校行事の大ケガを「自業自得と罵る教員」のなぜ 生徒は周囲からも誹謗中傷を受けてPTSDに

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結局、練習を重ねてきた同級生に迷惑をかけたくない思いで、文也君は本番の野外活動に参加した。トーチが始まると、最前列に座っての見学を強いられた。そのショックから、帰宅後は部屋に閉じこもりがちになった。

事故が報道で明るみになると、同級生からスマートフォンにニュース動画がいくつも送り付けられ、ますます人前に出ることが怖くなったという。

加奈子さんは振り返る。

「事故直後は、手の痛みに気を取られていたんですけど、(野外活動から)帰ってきて、だんだんおかしくなって、外に出るのをすごく嫌がるようになりました。真夏なのに長そでを着て、外に出るときはフードをかぶって顔を見えなくして。部屋に引きこもるし、ご飯も食べないし」

文也君は、2学期から不登校になった。事故が広く知られたことを受け、校長が自宅へ謝罪に訪れたが、事故原因などについては、おざなりな説明が続いた。加奈子さんは言う。

「(消火のために用意された)バケツの数にしても、先生の配置にしても、(校長の)説明と一部保護者から聞く話と食い違う。『こう聞いてるけど、どうか』って聞くと、1週間後に自宅へ来て『あれは違ってました』の繰り返しだったんです」

学校側の言い分は本当なのか。真偽を確かめるため、教育委員会に提出された事故の報告書や、活動当日に保護者が撮影した動画などを使い、自分で検証を続けた。

殺到した誹謗中傷や嫌がらせ

もっとも、一家を苦しめたのは、検証の労力よりも、周囲の無理解や誹謗中傷、嫌がらせだった。加奈子さんによると、報道直後から連日、深夜に自宅へ無言電話が掛かってきた。自宅ポストでは、郵便物が荒らされたり、なくなったりすることがあった。文也君の自転車に、タイヤが外れるような細工をされたこともあるという。

検証に向けての情報収集も容易ではなかった。トーチに参加した生徒の保護者らに対し、加奈子さんが「LINE」を使って情報提供を求めても、しばしば保護者から無視される。

「直接会った人からは『(文也君が)下手くそだったからやけどしただけなのに、何してくれてんの?』ということも言われました。ネットでも『私はトーチの被害者を知っています。すごい問題児です』と書かれたりもしました」

被害が深刻になるにつれ、文也君の精神状態はさらに悪化した。自分を責めて自分を殴るといった自傷行為に走る。その都度、夫の和也さん(仮名)が力づくで止めた。自殺願望が芽生え、「極楽にいきたい、助けて」と泣きながら訴える日もあった。

「このままではうちはダメになる」と感じた加奈子さんと和也さんは2人で話し合い、事故の7カ月後、市外へ引っ越した。

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