学校行事の大ケガを「自業自得と罵る教員」のなぜ 生徒は周囲からも誹謗中傷を受けてPTSDに

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

加奈子さんも和也さんも、環境を変えれば、文也君の気持ちも落ち着くだろうと期待した。実際は、そううまくは運ばない。文也君は、転校先の中学校に通い始めて1カ月後、再び不登校になったのだ。

課題提出のため、無理して学校へ連れていこうとすると、学校が近づくにつれ、手足が震え、パニックになる。そのときの記憶が飛ぶこともある。事故後、文也君はやけどの治療に加え、精神科も受診していた。しかし、医師の前ではしっかりと受け答えするため、周囲はしばらく、文也君のこうした状況に気づかなかったという。

今年1月、知人の紹介で首都圏にあるトラウマ治療専門病院を受診し、文也君は事故によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。

加奈子さんは「ちゃんと診てもらえる病院が見つかり、ほっとしました」と安堵する。それでも、気掛かりが消えたわけではない。

疲弊する息子が心配で仕事に行けなくなった両親

実は、鈴木家の生活は、事故によって破綻していた。事故前、飲食店のパート勤めだった加奈子さんは、文也君の通院や精神状態を心配し、仕事を辞めた。家計を支える主力だった和也さんは、疲弊していく息子と妻を放っておけず、仕事に行けなくなった。収入は激減し、治療費は家計を圧迫。子どもに食事を与えるだけで精いっぱいの日々に追い込まれていく。

学校事故でけがや障害を負った子どもを対象に、見舞金が支払われる共済制度がある。それを利用しようと、鈴木さん一家は制度を運用する独立行政法人日本スポーツ振興センターに、給付申請を行ってきた。すると、やけどは支給対象になっても、精神障害については事故との因果関係が認められない。申請しても却下が続いた。

2020年末、やけどの傷跡は残るものの、症状が固定されたのを機に、やけどのみで見舞金の給付申請をすることにした。支給が決まれば、文也君の精神科への治療費に充当できるからだ。

文也君はこの春、中学校を卒業した。高校生活を楽しみにしているが、まだ、人との関わりに恐れを抱いている。それでも、やけどの治療で出会った薬剤師との関わりをきっかけに、将来は自身も薬剤師を目指そうと夢を抱き始めた。

次ページあの事故は、文也君にとって何だったのか
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事