年収は働く街で決まっていた!

IT長者は職住近接が常識?

「相性を感じた人には、4度目くらいにキャベツを脱いで“肉食系”の説得をします」(藪ノさん)

商談や打ち合わせも、楽になった。渋谷のITベンチャーに勤める営業担当者(30)の移動手段は、「主に、徒歩」だ。

片道1時間半はツライ

クラウドソーシング大手のランサーズは1年ほど前、本社を神奈川県鎌倉市から渋谷に移した。鎌倉にはユニークなベンチャーが多く、

渋谷の新たな「顔」となった「渋谷ヒカリエ」。IT界をリードする存在に成長した「DeNA」や「LINE」が入居している(撮影:朝日新聞社、遠藤真梨) (c)朝日新聞社 

「鎌倉ベンチャーを盛り上げよう。目指すは、カマコンバレーだ! 渋谷に負けていられない」

という思いは強かった。でも、渋谷に移転してしまった。

「鎌倉愛」がなくなったわけではない。人材や販売網が潤沢ではないベンチャーは、同業者や大企業と連携しながら成長する。ところが、連携先が集まる渋谷までは、片道1時間半。とにかく遠いのだ。事業開発担当の山口豪志さん(30)は、
「意思決定者同士の打ち合わせがセットしにくいんです」

徒歩圏内の渋谷ならば、声を掛けて30分もあれば打ち合わせを始められる。ベンチャーの強みであるスピード感は、“スープの冷めない距離”にいることで生み出される。

ここで「あれ?」と、不思議に思う人もいるだろう。

「ITがあれば、北海道にいても、東京の会社と仕事ができるんでしょう」

「私、ノマドだけど、渋谷にいなきゃいけないの?」

確かに、ITの進歩で自宅やカフェなど、オフィス以外でも仕事ができるようになった。ただ、事業連携やM&A、資金集めのようなベンチャーの成長を支える「中枢の仕事」は、メールだけでは難しい。そこでは、やはりアナログなフェース・トゥ・フェースが基本なのだ。

2駅ルール、渋谷手当も

物理的な近さは、心の距離も縮める。山口さんは、東京・品川エリアにあるパナソニックの拠点へ出向くと、「何か面白い仕掛けができないか」とデジタルカメラの販売促進策を持ちかけられ、ランサーズに登録するクリエーターからカメラの外装デザインを公募する案を思いついた。会社に戻って提案書をまとめ、翌日、再び訪問。わずか1週間で企画に合意した。

パートナーが集まることで、ビジネス上のメリットが生まれる。これを経済学では「産業集積」という。例えば、トヨタ自動車の本社がある愛知県には、自動車の部品メーカーなど関連企業が集まる。愛媛県今治市では、タオルメーカーが力を合わせて「今治ブランド」を確立した。もっとも、それらが集積する目的は、コストダウンや効率化にある。産業集積を研究する中小企業基盤整備機構の柴山清彦さんは話す。

「渋谷のように、各事業者が成長しながら新たなイノベーションを生む例は、日本では珍しい」

次ページ付加価値の高い産業がある街は、給与が高い
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