ビジネス界が突如「SF」に注目し始めた納得の理由 商品や事業開発に使える「SFプロトタイピング」

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学術方面では同年、カリフォルニア大学サンディエゴ校にアーサー・C・クラーク人類想像力センターが創設されている。『2001年宇宙の旅』などで知られる著名なSF作家クラークの遺志を継ぎ、SF的想像力を育て実社会に応用することを目的とした研究組織だ。軍事方面では、2016年にアメリカ海兵隊戦闘研究所がSFワークショップを開催したり、2018年にフランス陸軍が、未来予測のためにSF作家を雇い「RED TEAM」を結成したりしている。

特に近年、ビジネス界からのSFへの注目度を押し上げた要因の1つに、中国の小説『三体』の大ヒットがある。バラク・オバマやマーク・ザッカーバーグといった著名人がこぞって絶賛したこともあって『三体』は世界的に知られるようになり、それまでSFに馴染みがなかったビジネスパーソンまでが手に取るようになった。

中国国家はそこにSFの勝機を見出し、現在、SF産業に大きな力を入れている。例えば、世界のSF関係者・ファンが一堂に会するイベント「ワールドコン(世界SF大会)」に政府支援で作家や政治家を参加させたり、「SF都市宣言」を行った四川省・成都の未来像を描くSFコンテストを開催したり、『三体』の著者である劉慈欣を火星探査プロジェクトのイメージ大使に任命したりといったことである。SFプロトタイピングはビジネスだけでなく、国家・行政にも関係し得る。

ビジネスでSFプロトタイピングを活用するには

ビジネスパーソンにとって特にSFプロトタイピングが役に立つのは、事業や製品を新たに創り出すような局面だろう。社内でプロジェクトを企画し、人材とリソースを回してゆく際には、いままで与えられてきた課題をこなすのではなく、これから進むべき道を決め、チームを動かす必要がある。

『SFプロトタイピング――SFからイノベーションを生み出す新戦略』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプします)

もちろん大前提として地道な分析は重要だが、確実な未来は存在しない。「こうなるだろう」ではなく「こうなりたい」という未来像を考えるように、思考法を切り替えなければならない。そんなミッションを背負ったあなたにとって、SFプロトタイピングがもたらす予想外の思考のジャンプ力は強い武器となる。

また、こうした思考のジャンプを、独りよがりではなく皆で協力して進めるためにも、SFプロトタイピングは役に立つ。社内で自分の意見を通すのは難しい。おそらくあなたの社内にはさまざまな専門家がいて、さまざまな価値観や意見を持っている。あなたのチームには優秀な人材が眠っているかもしれないが、社内のさまざまな圧力で、そうした人々の意見を十分に掘り出せないこともある。

そんなときに、SFプロトタイピングを介した議論が効果を発揮する。空想の世界には自由がある。「フィクション」であれば、誰もが枷を外して新しいアイデアを発言し、コミュニケーションしやすくなる。また、物語の世界の登場人物たちの気持ちに寄り添えば、その登場人物たちをなんとか救い出すアイデアも湧きやすくなる。あなたのチームを活性化させること、それが、SFプロトタイピングのもう1つの利点である。

自分が作家でないことなど気にしなくていい。場合によってはSF作家の手助けを借りてもいいのだ。最終成果物は作品ではない。あなたの企画だ。アマチュア上等、見様見真似で気軽にいけばいい。作品を作るプロセスから、未来をみんなで考えること、その力を養うこと、それがSFプロトタイピングの価値である。

宮本 道人 科学文化作家、応用文学者

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みやもとどうじん / Dohjin Miyamoto

1989年生まれ。筑波大学システム情報系研究員、株式会社ゼロアイデア代表取締役、博士(理学、東京大学)。編著『プレイヤーはどこへ行くのか――デジタルゲームへの批評的接近』、原案担当漫画連載「教養知識としてのAI」(人工知能学会誌)、対談連載「VRメディア評論」(日本バーチャルリアリティ学会誌)など。『ユリイカ』『現代思想』『実験医学』などに寄稿。原作担当漫画「Her Tastes」は2020年、国立台湾美術館に招待展示された。

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難波 優輝 美学者、SF研究者

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なんばゆうき / Yuuki Namba

1994年生まれ。美学者、批評家、SF研究者。修士(文学、神戸大学)。専門は分析美学とポピュラーカルチャーの哲学、SFスタディーズ。近著に『ポルノグラフィの何がわるいのか』(修士論文)、「SFの未来予測はつねに間違っていて、だから正しい」(「UNLEASH」)、「キャラクタの前で」(草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』解説)。短篇に「『多元宇宙的絶滅主義』と絶滅の遅延」(「SFマガジン」)がある。「ユリイカ」「フィルカル」「ヱクリヲ」などに寄稿。

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大澤 博隆 慶応大学准教授 慶応大学サイエンスフィクション研究開発・実装センター所長

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おおさわ ひろたか / Hirotaka Oosawa

慶応大学サイエンスフィクション研究開発・実装センター所長。日本SF作家クラブ会長。博士(工学)。共編著に『SFプロトタイピング』、監修に『SF思考』など。

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