尾身氏の「反乱」が揺さぶる菅政権と五輪のゆくえ 最大のポイントは五輪1カ月前の「最終判断」

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その場合、最大の節目となる18日の記者会見で、菅首相が尾身氏の言う通りに「国民の安全と五輪開催の両立を可能とする感染防止策を、具体的な科学的根拠も含めて、自らの言葉で国民の心に響く発言をする」(周辺)ことが求められる。

逆に、菅首相が繰り返す「お役所答弁」から踏み込むことができなければ、「国民的な批判や失望は必至」(閣僚経験者)。その場合、「五輪開催への国民的機運は盛り上がらず、中止・延期論がさらに拡大する」(同)との見方も少なくない。

与野党質疑はすれ違いのまま

多くのメディアが「尾身氏の反乱」を取り上げたことを踏まえ、7日の参院決算委員会では立憲民主の福山哲郎幹事長らが五輪開催のための具体的条件を明確にするよう求めた。しかし、菅首相は「緊急事態宣言の解除が最優先」「私は主催者ではない」「国民の命と健康を守るのが政府の使命でしっかり対応する」などと答弁メモを棒読みするだけで、質疑はすれ違ったままだった。

今後の政治日程をみると、9日には終盤国会の最大のヤマ場となる2年ぶりの党首討論が開催される。その翌日に菅首相は先進国首脳会議(G7)出席のためイギリスに向け出発。11日からのG7で各首脳と初めて対面で討議することになる。

当然、菅首相の五輪に関する発言に国際社会の注目が集まるが、政府は恒例とされるG7後の菅首相の内外記者会見を「現地でのコロナ対策の徹底」(外務省筋)を理由に見送る方針だとされる。これには「首脳としての発信力に自信がない証拠」(立憲民主幹部)との批判も出ている。

そうした状況も踏まえ、尾身氏が自ら予告した見解をどのタイミングで提言するのか。その中で五輪開催の具体的条件にどれだけ踏み込むのか。「政治的には、その見解が首相決断の足かせになることは間違いない」(自民長老)だけに、当面は菅首相と尾身氏の「厳しいせめぎ合い」(同)が続きそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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