女性社外取締役「アリバイ選任」する会社への疑問 登用は歓迎すべき流れだがその意味は一体何か

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アメリカ・ゴールドマンサックスの資産運用部門は、2020年3月から女性取締役が1人もいない日本企業に、株主総会で反対票を投じ始めた(記者撮影)

ほかにも、アメリカのアライアンス・バーンスタインやステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズなど、日本株を多く保有する投資家がすでに同様の方針を掲げる。2022年4月からは、JPモルガン・アセット・マネジメントも代表取締役の選任に反対する予定だ。

こうした「外圧」を受けた企業は、女性取締役の候補者の確保に急ぐ。実際、この5年で女性取締役の数は倍増しており、2016年7月末時点で636人だったのが、20年7月時点では1396人となった(『役員四季報』2021年度版、1人で複数社の取締役を兼任している場合は都度1人としてカウント)。この内訳を見てみると、社内から登用される取締役はわずか2割で、8割を占めるのが女性社外取締役だ。

取締役に適任の女性を急に社内の人材から探すことは、今の多くの日本企業にとってハードルが高い。さらに東証と金融庁が進める「コーポレートガバナンス改革」のもとで、企業が取締役に占める社外取締役の比率自体を上げていることも背景にある。

弁護士、コンサル、元アナウンサーが目立つ

それでは、実際に社外取締役に選任されているのはどんな経歴の女性なのか。社外取締役全体では、たとえば監査役会型なら元社長など経営経験者の数が多い。一方、女性で最も多いのが弁護士だ(図)。弁護士は、他業界に加えて女性の人材が豊富で、法的な観点からの助言ができることが重宝される理由だ。

各社が血まなこで女性社外取締役を探している今、女性弁護士はひっぱりだこの状態だ。現在、4社の社外取締役に就いているある弁護士は、「女性社外取締役を探している、という依頼を受けて知人の女性弁護士に打診してみたところ、皆すでにどこかの社外取締役に就いていた」と語る。

会計士や、経営コンサルタントも人気だ。著名コンサルの岡島悦子氏は、ユーグレナの社内取に加え、丸井グループなど5社の社外取締役を務めており、計6社の取締役に就いていることになる。会計士の安田加奈氏も、5社を兼任している。

就任すれば、月に1回の取締役会と、それに伴う事前説明会や、場合によっては工場などの見学などの業務があり、年に1度の株主総会にも出席する。何か緊急性の高いことが起これば、臨時の招集に応じることも必要だ。その替わり、報酬は1社あたり600万円~1500万円が相場といわれている。

さらに、対外的な発信力を期待されて人気なのが、元アナウンサーや俳優だ。3月には、テレビドラマ『白線流し』への出演で知られる酒井美紀氏が、菓子類の製造や販売を行う不二家の社外取締役に就任したことが話題になった。ほかにも、元TBSアナウンサーの竹内香苗氏はSBIホールディングス、同キャスターの伊藤聡子氏が積水樹脂、十六銀行、三谷産業の社外取締役を務めている。

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