飲食店「デリバリー参入」が簡単にはいかない根拠 コロナ長期化で見えてきた課題と今後の展望
「その結果、飲食店が倒れ、テナントが空いても誰もそこに出店したくなくて、結局、オーナーも固定資産税が払えないと悲鳴を上げている状況です」
とくに、“大箱”(席数50~100以上)で客単価3,000~5,000円クラスの食を提供していた店舗の経営は厳しく、連日のように大手外食チェーンが「100店舗閉めます」といったニュースが流れた。
中でも、銀座、浅草などインバウンド比率が高かったエリアはゴーストタウンと化している。「地獄絵図です。銀座では目抜き通りでも閉店が目立ちますし、一本裏に入ると上の方の階まで全部閉まっているビルもあります」
また、リモートワークが増え、新橋、日本橋、大手町などのビジネスエリアでは昼間人口が激減している。1社で2万人もの社員が通勤していた企業でも、今は週一出社やフルリモート化で一日に数百人も出てこないという。
「ワークスタイルの変化によって、ビジネスエリアの飲食店は大きくダメージを受け、それはもう戻りません。デリバリーしようにも周辺に人が住んでいませんし」
ダメージが少ない業態も
一方で、世田谷区など夜間人口が多いエリアの駅前や、「コメダ珈琲」などの郊外型ロードサイド店は比較的ダメージが少なく、「エリアの差で明暗が分かれた」と周栄さんは説明する。
「あとは業態ですね。ランチタイムやカフェタイムで売上の大半を稼いでいた店はそこまで影響がありませんが、夜20時以降にお客さんが来て、お酒を売って稼いでいたような店は如何ともしがたいです」
影響は飲食店だけでなく、食材を提供する農家や漁業者など生産者にも及んでいる。
たとえば、大きい魚の一尾物などの外食ならではの食材は、飲食店が休業すると売り先がなくなる。また、高級店向けの糖度を高めた野菜なども、生産コストがかかるため、JAの流通に回すには規格も価格も合わず、“こだわり農家”ほど、ダメージが大きい。
「コロナ禍がもう一年続くと、生産者も持ちこたえられません。後継者もいないまま撤退すると、日本の食文化にとって取り返しのつかない損失になります」と周栄さんは憂える。
営業時間短縮や休業要請などに対応して、昨年来、デリバリーに取り組む飲食店が増えた。「しかし、デリバリーは、設備、エリア、それに人的な資質という条件が揃わないとなかなかできません」と周栄さんは指摘する。確かに、目の前のつくりたての美味しい料理と、常温保存で半日経っても美味しい弁当は、根本的に別物だ。必要な技術も異なる。