日テレ一強の決算にみるテレビ戦略の致命的ミス 放送産業の大きなパラダイムシフトをひもとく

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「放送」ではもう伸ばしようがないのだから、「ライツ」に賭けるしかない。だから売り上げではなく利益を高める方向性を宣言した。

もう放送は伸びない。これはテレビ東京に限らずローカル局も含めたすべての局で同じだ。ということは、視聴率競争は指標を変えたにしてもさほど意味がないのだ。ここ数年、そうなのではというムードだったのが、コロナ禍ではっきりした。

21世紀型「放送局」の再定義

テレビ番組の価値を信じるなら、それをどうやったら見てもらえるか誰が何を求めているのかを考え、番組をその人たちにあった形で送り届ける必要がある。

WOWOWは決算と同時に発表した「10年戦略」の中で、こんなことを表明している。「コンテンツ→コミュニティ→カルチャー」。コンテンツを送り出すだけでなく、それを好む人たちのコミュニティを形成しカルチャーに昇華していく。

これは「放送局」のミッションの21世紀型の再定義だ。並行してネット配信に力を注ぎはじめたのも、コミュニティ形成の必要性を自覚したからだろう。会員の囲い込みが必要な有料放送ならではだが、実は無料放送でも同じことがいえる。

放送はコンテンツを送り出す起点として今後も重要だが、その後もいつでも接触できるよう配信も必須となっている。「お客さん」を維持し増やしていくためにはコミュニティを育成する必要もある。今後の放送局は視聴者、というより「ユーザー」と接していくイメージが1つの解だと考える。

(筆者作成)

テレビ番組は選んで見る時代だ。だからこそ、どんな人に見てもらえるかが大事であり、その層との接点がほしいスポンサーがいれば番組は成立する。不特定多数が見る指標である世帯視聴率は参考数値でしかなくなったのだ。

テレビの存在意義はいま、大きく変化し始めている。変化に沿って編成や番組作りを変えれば生き残れるメディアだと思う。どう生き残るのか、個々の局の戦略が問われている。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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