近くて遠い「西武新宿とJR新宿駅」がつながる日 直結通路の構想は"複々線化計画"の置き土産

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新宿駅周辺の地下歩行者ネットワークは地下街や地下鉄駅のコンコースなどを結んで構成されているが、一部に接続していない部分もある。今回の区間はその1つだ。新宿区の担当者は、「西武新宿線とJR線などの乗り換えは地下経由だと迂回が必要になり、地上も交差点が混み合っているなど課題が多い。(今回の区間は)地下通路整備の重要度は高い」と話す。

東京都と新宿区は2018年に、「新宿の拠点再整備方針」を策定した。2040年代を見据え、駅や駅前広場、駅ビルなどを一体化した「新宿グランドターミナル」として再開発する構想だ。西武新宿線とJR・丸ノ内線の乗り換え経路拡充は「グランドターミナルを一体化するターミナル軸の構築」に位置づけられており、地下通路の整備はその一環だ。

だが、西武新宿駅とJR新宿駅方面を直結する地下通路の構想は今に始まったわけではなく、西武が1980年代後半に打ち出した新宿線西武新宿―上石神井間約12.8kmの複々線化計画にさかのぼる。現行の新宿線の地下深くに急行用の新たな線路を建設し、高田馬場と西武新宿に地下駅を設ける計画で、この「地下急行線」の西武新宿駅改札外コンコースがJR新宿駅方面とを結ぶ地下通路の役割を果たす予定だった。

年内には決定したい

同地下駅を含む複々線化の計画は1993年4月に都市計画決定。だが、複々線の目的であった混雑の緩和が進んだことや建設費の高騰を受け、西武は1995年1月に計画の延期を表明した。その後、長らく凍結状態が続いていたが、現在は都市計画の廃止に向けた手続きが進んでいる。

今回の地下通路整備は「これに代わるもの」(新宿区の担当者)という。複々線化計画が廃止されれば地下急行線のコンコース計画も消えるため、改めて通路の整備を都市計画に位置付けるわけだ。約30年前の夢が正式に幕を閉じようとする中、地下通路は次世代の計画に受け継がれ、「グランドターミナル」の一端を担うことになる。西武にとっても、乗り換えの利便性が向上する通路の整備は新宿線の沿線価値を高めることにつながる。

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工事期間について、西武は「未定」としており、完成時期などは現時点では不明だ。ただ、新宿区の担当者は、4月に実施した都市計画変更素案の説明会で受けた意見などを参考に都市計画案を作成したうえで、「夏には計画案の説明会を開き、年内には都市計画決定したい」との意向を示す。

昨年7月には駅の東口と西口を直結する東西自由通路が開通し、長年の課題だった「東西分断」を解消した新宿駅。今回の地下通路整備をはじめ、駅とその周辺ではこれから大規模な再開発が続く。様変わりした渋谷に次ぎ、新宿もその姿を大きく変えようとしている。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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