毎週完売する「幻のチーズケーキ」誕生の裏側 温暖化につながる牛の放牧は「悪」なのか?

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昨今、サステイナブルという言葉が叫ばれるが、こうした地球環境の持続可能性に加え、地球環境の再生と生態系の繁栄を目指す考え方を「リジェネレイティブ」と呼ぶ。長沼氏は、「我々の思いをストーリーとしてお客様に伝えることも重要だと思っています」と話し、美味しさを演出するうえで欠かせないとも付言する。味や品質、プロセス、バックグラウンド、それらが組糸のように紡がれるからこそ、「CHEESE WONDER」の大反響といえるだろう。

「牛=悪」の価値観をひっくり返す

だが、これで終わりではない。視線はさらに、その先をとらえている。

「平地での酪農ではなく、日本の国土の7割を占めるといわれる森林を活用した酪農ができないか考えています。森は二酸化炭素を吸収することで知られていますが、実はまだまだ吸収できる余地がある。特に、北海道の森は放置されているケースが目立ち、笹が映えっぱなしになっているような状態です。その笹が日光を遮ることで、まったく森が活性化していないと言われているんですね」

そこで牛の出番というわけだ。

「牛を森に放てばエサとして笹を食べてくれます。さらに、蹄で落ち葉層といわれる土の一番上の部分を外散らかし、糞尿をすることで表土に栄養をもたらすことにもつながります。水分活性が高まるため、森の活性化になる」

それを証明するため、ユートピアアグリカルチャーは約30ヘクタールの山を購入し、北海道大学とともに研究を進める準備に取りかかっている。斜面で不自由はないのか? 牛の心配をする人もいるだろうが、岩手県下閉伊郡のなかほら牧場、北海道旭川の斉藤牧場などでは、山の植生を活用した「山地(やまち)酪農」が行われており、心配無用だ。

「住友商事さんがアメリカのアグリテック系ユニコーン企業であるインディゴアグリカルチャーという会社と業務提携をして、二酸化炭素を農地に吸収させ、その分の排出枠を企業に販売することを発表しました。国土の7割が森林である日本は、大きな可能性を秘めている。牛に負荷をかけることなく活用できれば、さまざまな未来が見えてくる」

牛=悪。その考え方をひっくり返す。お菓子をほおばる我々だけでなく、牛と地球もよろこばせる。単なるお菓子作りではないその取り組みから、目が離せない。

我妻 弘崇 フリーライター

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あづま ひろたか / Hirotaka Aduma

1980年北海道帯広市生まれ。東京都目黒区で育つ。日本大学文理学部国文学科在学中に、東京NSC5期生として芸人活動を開始する。2年間の芸人活動ののち大学を中退し、いくつかの編集プロダクションを経てフリーライターとなる。現在は、雑誌・WEB媒体等で幅広い執筆活動を展開している。著書に『お金のミライは僕たちが決める』『週末バックパッカー ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(ともに星海社)など。

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