毎週完売する「幻のチーズケーキ」誕生の裏側 温暖化につながる牛の放牧は「悪」なのか?

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「酪農で発生する温室効果ガスをオフセットさせることができれば、本物を追及しながら、牛にも環境にも配慮した放牧が可能になるのではないか」

新時代の酪農のユートピアになるように――。「私自身の酪農経験はゼロに等しいため、酪農経験者をはじめ周りの協力に頼りながら」ではあったが、こうして豊かな自然に囲まれた北海道日高町でユートピアアグリカルチャーは産声をあげた。

「現在、放牧による土の炭素吸収隔離についても北海道大学と共同研究している最中です。1ヘクタール(100m×100m)あたり乳牛1頭程度が理想と考えており、それ以上増えると吐き出す量が土の吸収量を超えてしまうためオフセットできなくなります」

ストレスレスな牛を作る工夫

その問題を解決するため、ユートピアアグリカルチャーでは32ヘクタール(東京ドーム約6個分)という広大な牧草地を、6つの牧区(囲い)に分け、オフセット可能な頭数の乳牛をそれぞれに配置するようにしている。さらに、食べさせる牧草を人が管理することによって、次のようなメリットも生じると続ける。

「何も管理せずにただ放牧させると、牛は同じところばかり食べ続けてしまい、(草を食べすぎて)過放牧になってしまいます。そのため牧区を区切って、草の成長を見ながらAの牧区からBの牧区へ、という具合に牛を回していきます。一般的に放牧では、8~10cmほどの草の長さが最適かつ栄養価が高いと言われています。この長さをキープする牧区で効率よく放牧すると、ストレスレスかつ健康な牛となり、美味しいミルクを採ることができます」

こうした方法はニュージーランドでは一般的だという。ただ、同国では 1ヘクタールあたりに4~5頭を放牧する“密”放牧の傾向が強いため、長沼氏の取り組みは酪農本来の姿に立ち戻ったアプローチといえる。長沼氏によれば、ストレスレスな牛のミルクは風味が豊かでお菓子作りに適しているとされ、夏と冬とで味も変わるという。 長沼氏が別のグループ会社で手がけている 「SNOW SAND」は、冬に採れた牛乳だけを使用した冬限定のお菓子というこだわりようだ。

さらに、お菓子に使用する卵も自社で管理し、日高町から30キロほど離れた新冠町に鶏舎を構える。「卵の採取量が追いつかないためCHEESE WONDERは、一日の生産個数が限られている」。原材料にこだわる姿勢は、牛乳だけではないというわけだ。加えて、この鶏舎が「面白い副産物をもたらしている」と続ける。

「我々はお菓子メーカーなので大量のスポンジやクッキーくず、そして大量のいちごを扱うため、そのヘタなどがたくさん余ります。本来であれば、産業廃棄物としてお金を払って捨てるところですが、これらがひな鳥のエサとして非常に栄養価が高いためリサイクルしています。しかも、鳥のフンが牛が食べる牧草の栄養にとても良いということもあって、そのまま肥料として活用し、美味しいミルクが生まれる一助になっています」

放牧酪農は、牛→糞尿→土→草という自然循環を作るサステイナブルな農業といわれているが、もう一次元そのサイクルを拡張するとは恐るべしである。しかも、環境に配慮しながら。

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