住友VS三井不動産、「借金王」と「業界盟主」の接戦 直近業績は明暗くっきり、行方を占う財務戦略

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三井不は2020年10月、社史にも登場する旗艦ビルの「新宿三井ビルディング」(東京・新宿区)を1700億円で売却すると発表した。1974年竣工の地上56階建ての超高層ビルで、同社の超高層ビル開発史に刻まれる記念碑的物件の売却に業界は驚いた。

三菱地所も2020年3月、本社を構える「大手町パークビルディング」(東京・千代田区)の持分を998億円で売却した。こちらもお膝元である大手町の物件であり、本来なら長期保有であるはずだ。

売却理由について三井不は「バランスシートの拡大状況を踏まえた」、三菱地所も「ポートフォリオ戦略の一環」と説明する。資産効率向上のためなら、旗艦ビルでも売却をいとわない構えだ。

幸いコロナ禍でも機関投資家の意欲は活発で、ホテルなど一部の用途を除けば高値での売買が続いている。だが、売り手市場が長く続いたとしても、売るべきタイミングは限られている。

一筋縄ではいかない旗艦ビル売却

三井不は2022年8月に「東京ミッドタウン八重洲」(東京・中央区)、2025年度に「日本橋一丁目中地区」開発ビルの竣工を控える。三菱地所も2027年度に高さ日本一(390メートル)の「トーチタワー」(東京・千代田区)などの完成を計画する。こうした超大型物件が竣工すれば資産はさらに膨らむため、それまでに手持ち物件を売却してポートフォリオを軽くしておく必要がある。

大型の旗艦ビルであれば1000億円単位の資産を放出できる一方、金額が大きくなるほど売却先の投資家が絞られる。また、高値の提示があっても怪しげな投資家に旗艦ビルを渡すわけにはいかない。

前述の新宿三井ビルディングや大手町パークビルディングのケースでは、売却先は自らがスポンサーを務めるREIT(不動産投資信託)や海外の年金基金といった素性の明らかな長期投資家だった。こうした旗艦ビルの「預かり先」がつねに見つかる保証はない。

住友不動産は、2019年度~2021年度の3年間で延床面積23万坪のオフィスビルを竣工・稼働させる(記者撮影)

資産入れ替えに邁進する2社とは一線を画すのが住友不だ。同社も2020年3月期~2022年3月期の3年間でオフィスビル開発に6000億円を投資する一方、有利子負債を増加させない方針を打ち出している。

開発した物件を抱え込む戦略を採りつづけた結果、都内に保有するオフィスビルは230棟を突破。そこから入る賃料で開発資金を賄えるようになったこともあり、今2022年3月期には右肩上がりだった有利子負債がいよいよ横ばいとなる見通しだ。

ひたすらオフィスビルの賃料収入を積み上げる住友不と、賃貸だけでなく売却もからめる三井不と三菱地所。コロナ禍でホテルや商業施設の稼働、オフィス空室率の動向が取り沙汰されるが、計画どおり物件売却が進むかも、大手不動産の業績の行方を多分に左右する。

一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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