知らぬ間に「自粛破り」?都県境をまたぐ路線 都内同士の移動でも隣県に入り込んでしまう…

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東急田園都市線も見てみよう。同線は二子玉川駅(東京都世田谷区)を出て多摩川を渡ると、神奈川県川崎市(高津区)へ。長津田駅までは神奈川県内(川崎市・横浜市)を走るが、同駅を出てカーブした高架橋を抜けると町田市内に入る。同駅近くにある長津田検車区は横浜市緑区と東京都町田市にまたがっている。

このあたりは同市域が神奈川県内に食い込んだ南端にあたり、すずかけ台駅の裏手はすぐに神奈川県横浜市だ。隣の南町田グランベリーパーク駅は都内最南端の駅である。同駅をすぎると神奈川県大和市に入り、中央林間で終点となる。この路線でも、町田市の複雑な形が「都県境またぎ」に影響しているとわかるだろう。

都内ではなく埼玉県内同士の移動でも都県境をまたぐケースがある。JR武蔵野線だ。武蔵野線は3都県にまたがっており、府中本町―新秋津間は東京都、東所沢―三郷間は埼玉県、南流山―西船橋間は千葉県となる。

区間ごとにはっきりと分かれており、複雑な都県境またぎはなさそうに見えるが、東所沢駅(埼玉県所沢市)と新座駅(同県新座市)の間の一部区間が東京都清瀬市にかかっている。ちょうど関越自動車道をまたぐあたりだ。清瀬市内には駅がないが、同市と新座市にまたがる形で新座貨物ターミナルがある。

この付近では、新秋津駅近くの西武池袋線秋津駅も複雑だ。同駅は南口が東京都東村山市、ホームの東側は清瀬市、そして北口とホームの西側は埼玉県所沢市。駅の中に都県境、かつ3市の境がある。「都県境をまたがない移動」は簡単ではないのだ。

人の流れは「都県境」で分けられない

これまでに挙げた多くの路線は「多摩」のエリアに属する。そして今回取り上げたすべての路線は、旧国名でいうと同じ「武蔵国」である。それが近代になり現在の都道府県に分かれていくなかで複雑な境界線が生まれていった。そこに鉄道が通るようになり、住宅地が開発されていった。その中で現実と合わなくなっていった部分もあるだろう。

現在、緊急事態宣言は関東圏では東京都にのみ出ており、神奈川県や埼玉県、千葉県では「まん延防止等重点措置」となっている。ただ、1都3県はほぼ一体となって存在しており、人の流れや日常生活は必ずしも都県境で分かれているわけではない。都県境と鉄道路線をめぐる複雑な状況を見るたびに、現実と政治・行政の不整合が感じられてしまう。

都県境も鉄道路線も複雑でややこしく、それゆえに面白さや難しさがあるのである。

小林 拓矢 フリーライター

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こばやし たくや / Takuya Kobayashi

1979年山梨県甲府市生まれ。早稲田大学卒。在学時は鉄道研究会に在籍。鉄道・時事その他について執筆。著書は『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。また ニッポン鉄道旅行研究会『週末鉄道旅行』(宝島社新書)に執筆参加。

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