近畿日本ツーリスト「債務超過回避」でも残る難題 ネット販売の強化に待ち受ける高いハードル

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そこで、近畿日本ツーリストでは店舗販売からネット販売へのシフトを進め、交通機関と宿泊を自由に組み合わせる「ダイナミックパッケージ」商品の大幅拡充を行う。そのほか、グループ共通システムの改修なども進める。

700万人の会員を抱えるクラブツーリズムでは、歴史や鉄道など、趣味ごとにユーザーがつながるプラットフォーム「新・クラブ1000事業」を広げ、動画サービスやオンライン講座など有料のサブスクリプションサービスにつなげる構えだ。今回調達した資金も、こうした取り組みに充当する。

旅行のネット販売も甘くない世界

どの取り組みも決して容易ではない。ネット販売で競争相手となるOTA各社は規模が小さい一方で、意思決定が非常に早く、1億円レベルの広告宣伝費の投入を即日決定することもあるという。また、ネットでの販売は、実際に店舗を構える対面販売とモデルが大きく異なる。国内OTA社長は「ITシステムを前提に、つねにオペレーションを効率化していかなければならない」と指摘する。

Web会見で、米田社長は人員削減について「残った者の責任として、会社を生き残らせ社会に貢献する」と語った(会見の配信画面をキャプチャ)

クラブツーリズムのプラットフォームサービスについても同様だ。LINEやヤフー、楽天など、強固なユーザー基盤を抱えるプラットフォーマーですら数々のサービスの失敗、終了を経験している。中でも有料課金サービスの難易度は高い。現時点では既存の人材で事業を進める方針だが、従来型の旅行会社の枠を越える以上、人材や組織面なども、従来と大幅に異なる体制が求められるはずだ。

米田社長は「これまでにない、非常に厳しい状況に置かれている」としつつも「どこまで売り上げが下がったらどう手を打つかなども考えている。今後の経営に生かさなければ、現在の経営陣がいる資格はない」と語った。債務超過の危機は脱したが、難解な構造改革をどう進めるのか。正念場が続く。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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