ギリシャ問題は金融危機にはならない

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 そして、問題を複雑にしているのがEUとユーロの存在だ。ギリシャの次の国々に対しては、厳しい処理案にしておかないと、財政破綻を回避する自助努力を促すことができなくなってしまう。
 
 また、救済する側のドイツなどの国内世論が、自分たちの財政を犠牲にして(消費税率も高いし、年金の受取額も実質的に削減されている)、甘い財政規律で破綻した国を救うことに抵抗するだろう。

一方、厳しい案にすれば、ギリシャはまとまらず、かえって次に破綻する国のことが語られ、次の破綻が近づき(ここは金融的な問題で、金利の上昇がタイムリミットを短くする)、ユーロ全体の問題も大きくなってしまう。

しかし、問題がいかに複雑で難しい国際政治交渉になろうとも、そこには妥協の余地があり、答えがあり、決められたタイムスケジュールの範囲内で処理が行われることになる。したがって、国内の暴動がどれだけ過激であっても、何らかの形での秩序だった処理が行われるのである。

だから、ショックとしては衝撃的なものとはならないだろう。一方、難しいのは敗戦処理とわかってはいるのだが、処理の方法は地道に負担をしていく、敗戦のツケを長い時間を掛けて払っていく、ということしかなく、解決策がないことだ。しかも、そこから目をそらすのが多くの国であり、日本はその典型である。

したがって、ギリシャ問題が世界へ広がるものの、その広がり方は秩序だった、予想どおりの各国財政破綻、世界経済停滞というプロセスをとることになろう。そして、これが短期のショックに終わらず、長い時間、場合によっては一時代をかけて処理していくことになることが、世界各国が今後直面する最大の経済問題となるだろう。
 
 だから、金融危機などという簡単なものではないのである。


小幡績(おばた・せき)
株主総会やメディアでも積極的に発言する行動派経済学者。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省、1999年退職。2001~03年一橋大学経済研究所専任講師。2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應義塾大学ビジネススクール)准教授。01年ハーバード大学経済学博士(Ph.D.)。著書に、『すべての経済はバブルに通じる』(光文社新書)、『ネット株の心理学』(MYCOM新書)、『株式投資 最強のサバイバル理論』(共著、洋泉社)がある。

photo:Orlovic CC BY-SA

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