イーロン・マスクも倣うロケット科学者の思考

先行き不安な人に勧める「第一原理から判断」

第一原理思考の重要性を説いたのはアリストテレスだ。彼はそれを「物事が知られる最初の基礎」と定義した。フランス人哲学者で科学者のルネ・デカルトは、「疑わしいと思うことすべてを疑い、自分のなかにまったく疑いようのない何かが残るかどうかを見きわめること」と説明した。

現在の状況を絶対不変なものとみなすのをやめて、鉈(なた)をふるおう。自分なりのビジョン――またはほかの人のビジョン――をもとに将来の道を決めるのをやめて、それらに対する忠誠心を捨てよう。ジャングルを切り開いて進むように、今抱いている思い込みを切り捨てるのだ。あなたの手元に基本の要素だけが残るまで。

ロシアから手ぶらで帰国の途についたマスクの頭に、突然ある思いがひらめいた。帰りの飛行機で、マスクは同行していた宇宙コンサルタントにもちかけた。「僕たちでロケットを作るのはどうかな」。「ロケットの」本を片っ端から読んでいたのは、こういうわけだったのだ。

マスクにとって、第一原理を使うとは、物理学の法則から始めて、宇宙にロケットを飛ばすのに何が必要かを自問することだった。彼はロケットを最も小さい従属部品や基本的な原材料に解体し、「ロケットはなにでできているか」を考えた。そして、材料費が一般的なロケットの価格に占める割合は2%ほどしかないということがわかった。驚きの数字だ。

価格にそうした開きが生じた原因のひとつが、宇宙産業における「外部委託の慣例」だ。そこでマスクは、自社の手でゼロから次世代ロケットを作ろうと決意した。スペースXのロケットに使用される部品のおよそ8割は社内で製造されている。そのため、コストも品質も生産ペースも効率的に管理できる。外部のベンダーにほとんど委託しないので、アイデアから実行までを記録的なスピードで実現できると考えた。

「前にできなかったから」を疑う

第一原理思考によってスペースXは、ロケット科学の領域に深く浸透しているもうひとつの前提に疑問を感じるようになった。それは「ロケットは再利用できない」というものだ。

NASAのスペースシャトルの再利用は、迅速でも完全でもなかった。とりわけ飛行頻度を考慮すると、点検と改修にかかるコストはとんでもない額になる。そしてスペースシャトルの再利用は、結局うまくいかなくなった。

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