日経新聞がタイの「強権首相」をあえて招く事情 問われる報道機関としての見識と説明責任

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それにも増して今回の招聘に強い疑問を抱いたのは、プラユット首相が選挙で選ばれた民選首相でさえないためだ。プラユット首相は、首相は下院議員から選ばれると定めた憲法をクーデターで破棄した。

そのうえで首相選任に票を投じる上院議員を民選から軍主導の任命制に変え、議員でなくても首相になれるよう新憲法を制定してその座に納まった。

日経記事が論評したタイ首相の素顔

プラユット氏について日経は2020年3月、「タイで強力な言論統制権、再び、首相、非常事態宣言」と題した記事で次のように論評している。

「プラユット首相が新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的に非常事態宣言を出した。軍出身で2014年のクーデターを主導した首相は昨年の総選挙を経て現政権を発足させたが、軍政時代に勝るとも劣らない強力な言論統制権限を再び手にした。『私が選任した者だけを通じて進捗状況を国民に報告する』。プラユット首相は非常事態宣言に伴う演説で、新型コロナ対策をめぐる政府の情報発信を自らの管理下に置くと語った。新型コロナへの対応では省庁間や連立政権内の連携不足や情報の混乱が目立ち、様々なメディアで批判的な論調が増加。軍人の頃から短気で知られる首相はしびれを切らし、情報発信の締め付けをあからさまに宣言した。プラユット首相の演説は軍政時代をほうふつとさせた。14年のクーデターから軍事政権を率いた首相はタイの権威主義の顔とされる」(2020年3月31日付)

日経新聞自身、プラユット氏を「権威主義の顔」と評しているのだ。

その点、「アジアが拓く新時代 新型コロナ禍の先へ」というアジアの未来会議のテーマは皮肉に聞こえる。日経の記事に照らせば、タイではコロナ禍の先に「強権と言論統制」が待っていたというのだから。

ミャンマーのミンアウンフライン国軍司令官の姿は、プラユット氏に重なって見える。ミャンマー国軍は一応、2年以内の総選挙を宣言している。アウンサンスーチー氏の率いる国民民主連盟(NLD)を排除した選挙を行うことになるだろう。

選挙制度はタイに習って、小選挙区制度を比例代表に変えるなどして軍に有利な仕組みにするはずだ。ほとんど無競争の選挙で親軍政党が勝つ。そして、ミンアウンフライン氏が大統領に就任するシナリオは非現実的とは言えない。選挙を経たのだからといって日経新聞は同氏を講師に招聘するのだろうか。

プラユット首相については少なくとも総選挙後、日本政府や多くの国々が一国の首脳として遇している。会議に招くことに問題はないという見方があるのかもしれない。

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