菅首相、「日米首脳会談で政権浮揚」の思惑外れ 支持率は横ばい、コロナ第4波で緊急事態宣言へ

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一方、菅首相は日米共同声明で台湾問題に言及したことについて、衆院本会議で「当事者間の直接対話による平和的解決を期待するわが国の従来の立場を、日米共通の立場としてより明確にするものだ。軍事的関与などを予断するものではまったくない」と力説した。

しかし、この点についても、立憲民主など主要野党だけでなく、与党内からも不満が漏れる。

中国との太いパイプを誇示する自民党の二階俊博幹事長は、「中国が反発するのは予想されること。日本は米中両国の間で率直に伝えるべきことは伝えて役割を果たしていくことが大事だ」と述べ、アメリカの圧力に屈したようにみえる菅首相の対応への不満をにじませた。対中貿易への悪影響を懸念する経済界も「今後の中国の出方次第ではリスクが拡大する」(経団連幹部)と不安を隠さない。

22日にも緊急事態宣言発令へ

緊張が解けたからか、帰国後の菅首相は疲労感を隠せず、帰国直後から大阪の緊急事態宣言要請などへの対応に追われた。20日夜の関係閣僚との協議後、菅首相は記者団に「(緊急事態宣言による)対策の中身も検討して速やかに判断したい」とこわばった表情で語った。

これと並行して、東京都の小池百合子知事も緊急事態宣言を要請する方針を決めた。政府は22日にも対策本部を開き、三度目の緊急事態宣言の発令を決める方向だ。

大阪府の吉村洋文知事は「3週間から1カ月」の期間設定を求めている。5月中旬には国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長訪日が予定されており、菅首相や小池知事との東京五輪開催をめぐる大詰めの協議にも大きな影響を与えそうだ。

菅首相にとって、今回の訪米による政権浮揚戦略は「コロナ第4波の襲来で、完全な思惑外れ」(自民長老)となった。週明けからとみられる東京、大阪、兵庫への緊急事態宣言がさらに拡大する可能性は少なくない。

大手メディアの世論調査で日米首脳会談の評価は5割を超えたが、コロナ対応で内閣支持率の上昇は見込めそうもない。現状では、菅首相の手足を縛る「コロナの蟻地獄」(同)からの早期脱出は容易ではなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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