「絶対安全」が好きすぎる日本人に伝えたい盲点 ISOやHACCPが世界の主流になった納得の理由

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食の安全の分野で、この「機能安全」の考えを採るのがHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point、ハサップ)である。これは食品を製造する際、工程の中の危害を起こす要因を分析し、それを最も効率よく管理できる必須管理点を定め、そこを連続的に管理して安全を確保するという管理手法で、世界の主流になってきている。

ここでも、ポイントは「安全な食品」という概念の否定である。つまりプロセス全体で安全度を高めるように、工程ごとに明確な指示書を作り、それを守ることが安全度を決定するという考え方である。

付着した細菌数などの結果としての「安全な食品」の基準を定め、それに適合しているかを審査するのでなく、あくまでその製造プロセスを規格化し、それが守られていれば、結果として生まれる食品はある安全度を達成している「はず」という考え方だ。

HACCPが日本に馴染んでいない理由

日本でもHACCPの考え方は、厚労省の総合衛生管理製造過程などに一部取り入れられてきているが、やはり馴染んでいない。以前、激安焼肉チェーン店でのユッケの食中毒事件が起こったときに、社長が反論で言った「生食用の規格の牛肉は流通していない」という言葉もその表れだろう。

従来の結果論的な日本の食品安全規格の考え方で、「生食用の肉」を定めるなら、「表面の細菌が何個まで」というような規格で決めることになるから、それに引っ張られているのだろう。

しかし、当然肉の表面の細菌数は処理と環境により時々刻々と変わっていくから、そういう定義は不可能だ。

実は世界に冠たる鮨文化に代表されるように、長い付き合いでの信頼をベースに、明確な指示書などなくても、生産者から流通までのサプライチェーン全体で鮮度を維持し、調理前にも状況に応じて表面をトリミングしたり、タタキのように炙ったりする――長い間に痛い目にあってきた経験をもとに、生をより安全に食べる不断のプロセスを、われわれ日本人は生み出してきた。ただ問題は、そういう伝統がそれぞれの現場の人の伝統で維持されるもので、明文化されていないことが多いことだ。

変化の速い現代において、まさに「激安ユッケ」のような伝統のない新しい分野が生まれるとき、当然暗黙知による安全度確保は働かない。そうである以上、明文化されたプロセス認証であるHACCPの導入は必要であり、そのためにも「安全がまずあり毀損されて危険になる」のではなく、「安全度を上げる不断の努力の連鎖の維持」のみが本質であるという意識改革が必要なのだ。

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