トヨタが自動運転で「世界初」にこだわらない訳 「技術競争」から「普及」のステージへの転換

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「ソフトウェアファーストの量産開発おいて、いわゆるビッグデータのプラットフォームについてどう考えているか。先日のトヨタ・日野・いすゞによる(小型トラックでの連携)や、昨年(2020年)公表のトヨタ・NTTの協力等を含めて、(乗用としての)オーナーカーと(公共交通機関や物流向けの)サービスカーの両方の事業を持つ自動車メーカーとして、GAFAM(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン・マイクロソフト)との付き合いかたも含め、今後どのようなスケジュール感で進めるのか。国とのデジタル化戦略を追い風として、早期に対応するのか」 

トヨタ・日野・いすゞ共同記者会見が2021年3月24日に行われた(写真:トヨタ自動車)

これについてトヨタの自動運転事業を取りまとめる関係者は、「ビックデータの取り扱いは、個人情報保護法のもとで利活用することが基本だ。今回はオーナーカーで始まっているが、この先は商用として利便性との期待値はある。(事業としての)最後の出口は、いろいろなお客様になるが、どういったソフトウェア連携となるかは、まだわからない。まずはトヨタとしては、お客様に乗用から商用まで使われ方を学んでいきたい」と言うにとどめた。

また、ウーブンプラネットのCEO、ジェームス・カフナー氏は「(データプラットフォーム構築という観点で)自動車業界にとって、ウーブンプラネットに大きなチャンスがある。開発サイクルの高効率化のみならず、商用車分野とも連携して、最適な商品を生み出していきたい。そのために、ソフトウエアやAI学習を活用する開発は必須となる」と答えた。

要するに、自動運転の普及を考えるうえで、乗用車、商用車、公共交通などを個別の技術として見るのではなく、社会全体のデジタル化の中でどのように体系づけているかが重要であり、「乗用車の自動運転レベルを引き上げる」という単なる技術競争の観点で話を進めるべきではない、ということだ。

Woven Cityを持つトヨタだからこそ

こうした考え方は、Woven City(ウーブンシティ)という巨額投資によって実社会を構築しようとするトヨタならではの、社会を俯瞰する発想だ。むろん、ウーブンシティを成功させ、トヨタがいう「原単位」として全国に、また世界各地に「横展開」させるためには、数多くのハードルがあることは明らかだ。

自動運転の自動車メーカー間における技術競争はいま、過渡期にある。重要なことは「いつ」「どこで」「誰に」「どのようにして」自動運転が必要なのかという視点だ。いま、社会全体で自動運転のあり方について改めて考える時期だと思う。

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桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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