「パーパス」なきESGやSDGsでは、未来は拓けない 日本発の新たな経営モデル「志本主義」のすすめ

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インターブランドのベスト・ジャパン・ブランド100社のランキングに入るB to B企業は、キーエンスや村田製作所など、数えるほどしかない。しかし今後、食と健康が大きな社会課題となる中で、不二製油のような食材メーカーが、独自のブランド価値を磨き上げることでランキングに顔を出してくることも、決して夢ではないだろう。

30年以上先を見据えた「志」を掲げよ

以上、最近の2つのランキングを通して、ニューノーマル時代に向けて大きく舵を切っている企業の例を見てきた。ソニー、任天堂、ライオン、不二製油。いずれにも共通しているのが、顧客体験価値を社会価値にまで高め、しかもそれを独自のパーパスを基軸に展開している点である。

昨今、経営の世界で話題の「パーパス」は、「志」という日本語がしっくりくる。だから、このような経営モデルを、筆者は「志本経営」と呼んでいる。

「カネ」の自己増殖運動に突き動かされた資本主義が、破局に向かっていることは今や明らかだ。資本主義の先の未来を拓くのは、「志」の共感共創運動を原動力とする「志本主義」である。今回のコロナ禍は、資本主義から志本主義への歴史的な変曲点となるはずだ。

そして、それは日本企業にとって、またとないチャンスをもたらす。志本主義は、「三方よし」という250年以上続く日本古来の経営モデルを源流としている。

今年のNHK大河ドラマの主人公・渋沢栄一は、100年前に「論語と算盤」を唱えた。英語に直せば、まさに「パーパス&プロフィット」である。

ESGやSDGsなどといった欧米発の経営モデルを後追いすることは、そろそろ終わりにしよう。そもそもSDGsは2030年をターゲットとした近未来の目標にすぎない。賞味期限は10年を切っている。

ソニーの「感動」、任天堂の「笑顔」、ライオンの「健康な生活習慣」、不二製油の「地球と人に優しい食(PBF)の提供」。いずれも、SDGsで分類されている17枚のカード(規定演技)をはるかに超えた独自の志を掲げたものだ。それを筆者は「自由演技」と呼ぶ。しかも時間軸は、いずれも30年以上先、21世紀の後半に照準を当てたものである。

日本企業は、志本経営という世界的な潮流の波頭に立っているのである。コロナ禍を奇貨として、自社独自のパーパスを掲げ、世界に向けて高らかに発信していくことを、ぜひ志していただきたい。

名和 高司 京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋ビジネススクール客員教授

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なわ・たかし / Takashi Nawa

1980年東京大学法学部卒業、三菱商事入社。90年ハーバード・ビジネススクールにてMBA取得(ベーカー・スカラー)。その後、約20年間、マッキンゼーのディレクターとしてコンサルティングに従事。10年より一橋大学教授。22年より現職。ボストン コンサルティング グループ、アクセンチュアのシニアアドバイザー、ファーストリテイリング、デンソー、味の素などの社外取締役を歴任。現在、SOMPOホールディングスの社外取締役、朝日新聞社の社外監査役など。著書に『パーパス経営』(東洋経済新報社)、『超進化経営』(日本経済新聞出版社)、『問題解決と価値創造の全技法』(ディスカヴァー21)などがある。

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