事業仕分けの仕掛け人、現場の風を官に吹かせた--加藤秀樹・行政刷新会議事務局長
実際、構想日本が試行錯誤した結果、編み出したノウハウは随所に効果を発揮した。たとえば「事業シート」。各省の予算書を見ても何もわからない。それを誰が見ても、事業内容がわかるよう、すべての事業をそのシートに書き込ませた。また仕分け本番の準備として、仕分け人は教育や医療機関など税金が実際に使われている現場に足を運び、ヒアリングを実施。その内容を共有した。 「現場の状況を把握できてこそ議論で切り込める」。
国の事業仕分けでは、構想日本がチームを組んできたネットワークもフル稼働した。仕分け人にはこれまでに関係を築いてきた自治体職員が多く参加。加藤はよく「地方は末端ではなく先端」と口にするが、まさに行政の先端で見てきた無駄を、自治体の仕分け人は鋭く指摘した。
一方、「事業仕分けは乱暴すぎる」との指摘も相次いだ。象徴的だったのが科学技術関係の予算だ。ノーベル賞受賞者がそろって会見を開き、「見識を欠く」などと批判し、「科学技術創造立国とは逆の方向を向いたもの」とする声明も発表した。
加藤は一笑に付す。「誰一人として(仕分け人は)科学技術を否定していない。そういうことを見も聞きも知りもせず、『非見識』というのは、それこそ非科学的でしょう」。
加藤によれば、事業仕分けの議論に政策判断は基本的に入らない。「事業仕分けはその政策がいいか悪いかの判断をする場所じゃない。すでに行われた政策判断の下、執行されたおカネが目的どおりに有効に使われたかを議論する場所だ」。
行政を現場から見ていくことで、背後にある制度や組織の問題点、政策の良しあしが浮かび上がってくる。役所の膨大な予算書を読んでも行政の実態、組織や制度はわかりにくいが、現場でのヒアリングをベースに公開の場で一事業ずつ見ていけば、議論も深まるし、一般の人が聞いてもわかりやすい。
「役所の事業を丸ごと引っ繰り返して、こんな問題があると言ったら、みんな放っておけなくなる」。事業仕分けは、「官と民の役割分担」の壮大な思考作業の場である。