フジの違反で露呈「総務省」のお粗末すぎる実態 外資規制が形骸化、東北新社騒動とは何が違う?

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厳重注意だけで終わった理由について、4月9日の会見で武田良太総務大臣は「外資規制違反の状態がその時点で存在しないのであれば、放送法上、認定の取消しを行うことができないと判断した」と述べている。

つまり、フジメディアHDは2014年9月までの約2年間、外資規制違反の状態にあったが、総務省に相談した2014年12月時点で違反状態は解消されていたために認定を取り消さないという判断に至ったというのだ。

同じく議決権比率における外資規制違反によって、東北新社は5月1日にチャンネル認定を取り消される。東北新社は当初の認定そのものに瑕疵があったため、フジメディアHDと異なり認定取り消しに至ったという。

総務省は形骸化を正せるか

浮かび上がってきた疑念は、放送法における外資規制の「形骸化」だ。総務省は放送局が現在進行形で外資規制に違反していなければ、認定取り消しをできないという認識を示した。ただ、東北新社やフジメディアHDのケースから、総務省は事業者自身が申告したり、外部からの指摘がなければ外資比率等の違反状態に気づくことができない状況だったと考えられる。

また、事業者自身が気づいた場合でも、違反状態を解消したのちに事後報告すれば、認定取り消しには至らない。そのため、実質的には外資規制違反でチャンネルや放送事業者としての認定を取り消すことはほぼ不可能だったと考えられる。放送行政に詳しい立教大学の砂川浩慶教授は「正直者が馬鹿を見る事態になっている」と現状を指摘する。

外資規制によって外国から報道機関への影響を防ぐことは極めて重要だが、今後はより実態に合わせた形にルールを見直していく必要性がある。砂川教授は「そもそも規制の上限が20%が妥当なのか、グローバル化の中で外資規制がどうあるべきかは議論されていない。より実態に合った形に変化させていくべきだ」と話す。

今後、総務省はチェック体制の強化や、外資規制に関する専門部署の設置に乗り出す見込みだ。ルールの形骸化を放置した同省が、どれだけ本質的な改革に踏みこめるかが焦点となる。

無料で東洋経済プラスの特集「混迷 東北新社問題」(「東北新社の認定取り消しが『かすり傷』の意外感」「総務省が停滞する『4K放送』にこだわる無理筋」など…)をお読みいただけます。

井上 昌也 東洋経済 記者

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いのうえ まさや / Masaya Inoue

慶應義塾大学法学部政治学科卒業、同大メディア・コミュニケーション研究所修了。2019年東洋経済新報社に入社。現在はテレビ業界や動画配信、エンタメなどを担当。趣味は演劇鑑賞、スポーツ観戦。

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