中国人が顔データの「無断収集」に激怒するワケ 名物番組では個人情報を巡る企業の不正を暴露

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中国は日本に比べると個人情報保護意識が各段に緩い。「どうせ国に筒抜けになっている」との諦観に加え、合理性を優先する国民性もある。

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるIT企業が個人情報を独占する問題がクローズアップされるようになっても、検索ポータル大手バイドゥ(百度)の李彦宏CEOは、「中国人はオープンで、プライバシーよりも利便性を優先する傾向がある」と発言するほどだった。

事実、アリババがユーザーの購買履歴や犯罪履歴を基に個人の信用を数値化する「信用スコア」を整備し、これまで銀行から融資を受けられなかった人たちがアリババの金融サービスでお金を借りられるようになったし、コロナ禍では個人の感染リスクを判定するアプリ「健康コード」が短期間に普及した。

だが中国人にとっても、顔認証となると話は別だという。北京の20代会社員女性は「携帯番号は変えられるけど、顔は自分では変えられない。勤務先の玄関やスマホのロック解除などで使う分にはいいが、店舗で情報を取られ、どう使われるかわからない状況は受け入れられない」と話す。

顔認証カメラで消費者の資産状況や購買傾向、ブランド忠誠心が分析できれば、顧客ごとに商品価格を変えることも可能で、消費者の立場が弱くなるとの懸念も高まっている。

動物園の顔認証入園システムで訴訟

中国国家市場監督管理総局は「個人情報安全規範」で、生体情報収集にあたって個人の同意を義務付けており、店舗で顔のデータを無断収集するのは違法行為だ。

顔認証を巡っては技術の急速な普及に伴いこれまでも多くの問題が起きている。例えば杭州野生動物園が2019年に入園手続きを顔認証に切り替えた際には、年間パスポートを購入した市民が、杭州市の裁判所に提訴した。

原告の市民は「消費者権益保護法は消費者情報の収集・使用にあたって、その目的や方法、範囲を明示したうえで、同意を得なければならないと定めているが、動物園は告知義務を十分に履行せず顔認証システムを導入した」と主張し、顔の登録を拒否したことで年間パスポートが失効する損害を被ったと訴える。

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