日立、中国退け「ワシントン地下鉄」受注の裏側 新工場を建設し、川崎重工業の牙城に食い込む
2010年、アルストムやボンバルディアといった世界の大手鉄道メーカーを押しのけ、川崎重工業がワシントン地下鉄の新型車両「7000系」64両を受注した。同社が製造した車両は安全性や快適性の高さが評価され、その後も順調に追加製造計画を獲得し、現在はWMATAの地下鉄車両の過半数となる748両が運行する。文字通り、ワシントン地下鉄の主役である。
WMATAが8000系の入札を行うと発表したのは2018年9月のことだ。1980年代に製造されたブレダ製の車両が導入から40年近く経っており、その置き換えが主目的となる。さらに2000年代に導入されたアルストム製の車両の置き換えも見据える。過去の車両納入実績のあるアルストム、そしてブレダを引き継いだ日立をはじめとして、各国の主要な鉄道メーカーが関心を示した。
7000系の評価が高い川重に対する期待も大きかったが、川重は結果として選考から外れた。入札に参加したかどうかについて、川重の担当者は「個別の案件についてはお話しできない」としている。
次世代車が川重製でない理由
もっとも、川重には入札に参加しない、あるいは入札に参加したとしても積極的にはなれなかった理由がある。目下、ニューヨークで大型の車両案件を抱えているのだ。同社はニューヨーク地下鉄に1982年の初受注以来、これまでに2200両を超える車両を納入している。その信頼を武器に2018年1月に新型車両「R211」535両の受注を獲得した。受注金額は約14億ドル(約1500億円)。2020年から2023年にかけて納入する予定だ。
これだけなら、8000系を受注しても、WMATAが求める2024年の納入に綱渡りで間に合うが、R211には追加で最大1077両を製造するオプションがある。オプションがすべて行使された場合には生産総数1612両、受注総額は37億ドル(約4100億円)で、川重にとっては過去最大規模の鉄道車両受注案件となる。オプションの製造は2025年まで継続する。追加生産は初回生産で得た製造ノウハウを活用できるため、初回生産時よりも高い利益率が見込める。これを逃すわけにはいかない。
加えて、川重はニューヨーク州とネブラスカ州にすでに工場を有している。一方で、日立は新工場を建設して地元の雇用に貢献するとしており、これは受注獲得への大きな後押しとなる。では、川重は新工場を造ってでも新規受注を狙うべきか。その場合、新工場が8000系の後も安定して稼働できるだけの新規受注を得られるかという点が課題となる。こうしたメリット、デメリットを勘案すると、8000系の製造が川重でなかったとしても不思議はない。
一方で、8000系の受注獲得に意欲を見せたのは中国の車両メーカー、中国中車である。中国の2大鉄道車両メーカーが合併して誕生した同社は、低価格を武器に世界各国での受注をじわじわと増やしてきた。受注の見返りとして、中国政府が発注国に便宜を図ることもある。
中国中車はアメリカ国内でじわじわと存在感を高めてきた。まず2014年に中国中車の前身メーカーがボストンの地下鉄車両284両の製造契約を獲得した。その後中国中車は2016年にシカゴの地下鉄、2017年にロサンゼルスの地下鉄の車両製造を受注している。
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