不況に沈む会社と「踏ん張れる会社」の意外な差 営業利益率でなく対粗利利益率で見てみると?

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わが国のサービス業で時価総額トップクラスのリクルートホールディングスと商社代表格の伊藤忠商事の2020年3月期の決算数値を比べてみましょう。

自己資本比率、ROA、ROEも大事だが

どちらの会社も業界トップクラスの優秀な経営成績なのですが、営業利益率だけを比較すると伊藤忠商事は3.6%と8.6%を確保するリクルートに見劣りするかに思えます。しかし、粗利率の低い商社の営業利益率が低いのはむしろ当然のことで、RPGで比較すると伊藤忠商事は22.2%と、とても良好な経営状態にあることが分かるのです。

『成長も安定も実現する経営指標「RPG」入門 :営業利益を粗利で割るだけで会社の明るい未来が見える本』(合同出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

※なお、RPGを「どの程度売上高を落としても利益を確保できるか」を示す指標として正確に算出するためには、売上高原価に含まれる人件費や家賃等を変動費ではなく固定費として計算する必要がありますが、ここでは便宜上「売上高原価=変動費」「販管費=固定費」として説明をしています。

もちろん、このほかにも、自己資本比率やROA、ROEといった数々の経営指標があり、どれも大切な指標といえます。

もっとも、自己資本比率(純資産÷総資産×100)も業種や会社の社歴によって何%位を目指せばいいかが千差万別なうえ、計算の元となる貸借対照表は、会社が創業して以来の歴史が積み重なった結果を表しています。

社歴の長い会社の場合、先代や先々代からの負の遺産を抱えて経営しているようなケースもあり、1年や2年良い経営成績を上げてもなかなか自己資本比率は回復しないということもあります。一方で、高いRPGを維持していれば、自己資本比率も自然と徐々に回復します。

また、

・ROA(総資産利益率=当期純利益÷総資産×100)
・ROE(自己資本利益率=当期純利益÷自己資本×100)

は、資産や自己資本に対してどれだけ効率的に利益を生み出せているかを見ることに使われます。

特に株主にとっては、効率的に利益を生み出せているかということは経営の本質的なバロメーターになります。しかし、ボーイング社の経営危機に代表されるようにROAやROEが高くても内部留保がなければ、突然の売り上げ減に耐えることが難しくなってしまいます。

コロナショックは目先の短期的な利益だけでなく、RPGを高めて利益を留保する中長期的に安全性の高い経営の大切さを再認識させてくれたと私は考えています。

三谷 淳 未来創造弁護士法人 代表弁護士

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みたに じゅん / Jun Mitani

慶應義塾大学法学部法律学科出身。2000年弁護士登録後は横浜の大手法律事務所に勤め、数多くの裁判を手がける。このころ旧日本軍の爆雷国家賠償訴訟に勝訴し、数々のマスコミに取り上げられる。しかし、2006年に独立し三谷総合法律事務所(現・未来創造弁護士法人)を設立すると、裁判はたとえ勝訴しても、時間がかかり、依頼者に強いストレスをかけ、結果的におカネも回収できないケースが多いことに気づき、徹底的に交渉術や紛争予防法を研究する。1日5件、週に20件、年間1000件の交渉を実践し、「日本一裁判しない弁護士」と呼ばれるようになる。紛争の早期円満解決や予防は、トラブルを抱えるクライアントだけでなく、企業経営者からも絶大な支持を受け、現在では「経営を伸ばす顧問弁護士」として地域、業種を超えて全国各地の上場企業から社員数名の企業まで100社近くの顧問弁護士を務める。

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