ラガルドECB総裁、またも市場「挑発」の危うさ 「市場との対話」に慢心は禁物だと心得るべきだ

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思えば、自慢のPEPPもラガルド総裁の失言から生まれている。PEPPは1年前の2020年3月18日に臨時政策理事会を開催して突如決定した枠組みである。

この臨時会合を開催しなければならなかったのは、コロナショックの真っただ中で開催されたその前週(同3月12日)の定例会合において、ラガルド総裁は「われわれは国債利回りを抑制するために政策運営をしているわけではない。それはECBの機能や使命ではない。そうした問題を処理するための別の政策や別の役者がいる」と述べ、市場の大きな失望を買った。

そして、その結果、イタリア国債を筆頭に域内金利が上昇してしまった。その火消しとしてPEPPが出てきたわけである。すぐに失言とわかるような情報発信を突発的にしてしまう怖さがラガルド総裁にはあるように思える。悪く言えば口が軽いのだろうか。

ECBはすでにFRBを抜く膨張ぶりなのに

今回は「挑発」に乗って、域内国債が手放され、金利が上振れするような展開には幸い至らなかった。しかし、今後、域内金利が上昇するタイミングで発言が蒸し返される可能性も否定はできない。その場合、現在の週200億ユーロ程度の買い入れペースでは間に合わないかもしれず、昨年4~6月期の300億ユーロ程度まで引き上げ、さらには、2022年3月末を待たずして拡大・延長を議論することにもなりかねない。

今やアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)を抜いて世界最大のバランスシートを擁する中央銀行となったECBの総裁には、そこまで考えたうえでの慎重な情報発信が求められるように思う。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学経済学部卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)を経て2008年よりみずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。著書に『弱い円の正体 仮面の黒字国・日本』(日経BP社、2024年7月)、『「強い円」はどこへ行ったのか』(日経BP社、2022年9月)、『アフター・メルケル 「最強」の次にあるもの』(日経BP社、2021年12月)、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』(東洋経済新報社、2017年11月)、『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月)、など。TV出演:テレビ東京『モーニングサテライト』など。note「唐鎌Labo」にて今、最も重要と考えるテーマを情報発信中。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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