ラガルドECB総裁、またも市場「挑発」の危うさ 「市場との対話」に慢心は禁物だと心得るべきだ

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声明文で「次の四半期にわたって(over the next quarter)」と宣言された購入ペースの加速はすでに会合翌週から実施された。会合時点では「大幅に速いペースで(significantly higher pace)」の定義は不明であったが、会合後の2週間で実態が見えてきた。数字を見ていくと、3月11日の政策理事会直前の購入ペースは、過去4週間平均で週140億~150億ユーロ程度だった。これが会合翌週の3月15~19日週で211億ユーロ、3月22~26日週で190億ユーロ、平均して週200億ユーロへと加速している。

会合前に比べてプラス30~40%の増加は確かに大きな変化だが、これを、「大幅に速いペース」とまで呼ぶかどうかは疑問の声もあるだろう。逆に「この程度の買い入れ増額で金利上昇を抑制できている」という安心感もラガルド総裁のあのような発言の背景だと思われる。

昨年も市場との対話で失敗している

「週200億ユーロ」というペースならば、PEPPの総枠1.85兆ユーロからして、最終期限である2022年3月末まで継続可能である。3月26日時点でPEPPの利用残高は9326億ユーロで、ちょうど半分を使用した状況だ。全部使う義務はないが、残り半分を使うとして、これは月間にして777億ユーロ、週間にして194億ユーロなので、増加後の週200億ユーロというペースとおおむね一致する。逆算した結果、今のペースに落ち着いたのかもしれない。

しかし、現行枠組み(PEPP)が十分な効果や柔軟性を有していることに自信があるからといって、わざわざ市場を「挑発」して中央銀行がトクすることは何もない。「市場との対話」に慢心は厳禁である。政治家出身のラガルド総裁は「市場との対話」に関して不安を指摘されることがままある。今回もその点が露呈したように感じられた。

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