ホンダ「フィット」がイマイチ売れない理由 同社の軽自動車「N-BOX」との競合も要因か?

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ホンダの軽自動車「N-BOX」シリーズ(写真:ホンダ)

N-BOXは、ホンダが誇る軽スーパーハイトワゴンだ。全高1790~1815mmという背の高さや、先述したホンダ独自のセンタータンクレイアウトなどにより、大人4名がゆったりと座れる室内空間を実現。2020年までの登録車を含む新車販売台数で4年連続1位、軽4輪車では6年連続でトップを維持している、今日本で最も売れている自動車だ。

価格(税込)も、N-BOXはガソリン車のみの設定で、142万8900円~223万3000円。対するフィットのガソリン車は155万7600円~218万6800円だ。価格帯は非常に近く、ハイブリッド車を選ばなければ、十分競合になりうるのだ。

コンパクトカーと軽自動車が競合に

近年、特にコンパクトカーや軽自動車のユーザー層には、60歳以上の高齢者が増えているという。それら世代は、子供が独立するなどで、大人数が乗れる大・中型の自動車が不要となり、ミニバンなどから乗り換える層も多い。小型の車体により日本の道路事情でも運転しやすく、夫婦2人がゆったり乗れればいいのであれば、フィットとN-BOXは十分に比較対象になりうる。価格があまり変わらず、むしろ税金など維持費が安いN-BOXに顧客が流れることは容易に想像がつく。ましてや、後席の広さやゆったり感は、N-BOXのほうが優っている。加えて、フィットにはないスライドドアにより、小さな子供や主力ユーザーの高齢者でも乗り降りがしやすい。

自動車の新車販売台数は、年々減少傾向だ。自動車工業会のデータによると、初代フィットが発売された2001年には、乗用車(軽自動車を含む)の年間新車販売台数は428万9683台だったのに対し、2020年は380万9981台で、コロナ禍の影響もあり前年比は88.58%だった。

現行フィットは、新車販売台数で年間1位になるといった初代や2代目ほどの華々しさはない。だが、「自動車が売れない」厳しい状況が続く中で、発売1年が経過した現在でも5000台以上を販売しているという意味では、十分に健闘しているといえる。ただし、敵は他メーカーのモデルだけでなく、身内のN-BOXまでいる。ひと昔前なら、コンパクトカーと軽自動車が競合する、しかも同じメーカーのモデル同士で顧客を取り合いするといった状況は想像できなかったが、それが現実だ。

かつて日本を代表する大衆車だったフィットですら苦戦を強いられる今の時代。自動車業界の過酷なサバイバル戦は、まだまだ続きそうだ。

平塚 直樹 ライター&エディター

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ひらつか なおき / Naoki Hiratsuka

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなどの専門雑誌やウェブメディアの編集者を経てフリーランスに。生粋の文系ながら、近年は自動運転や自動車部品、ITなど、テクノロジー分野の取材・執筆にも挑戦。ほかにも、キャンピングカーや福祉車両など、4輪・2輪の幅広い分野の記事を手掛ける。知らない事も「聞けば分かる」の精神で、一般人目線の「分かりやすい文章」を信条に日々奮闘中。バイクと猫好き。

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