どんぐり街道、旭紋…高速の愛称は定着するか いまいち「ピンとこない名前」が増える理由

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以前、筆者が京都に住んでいたとき、奈良に出向く際に使ったのが「京奈和(けいなわ)自動車道」である。文字どおり、京都と奈良、和歌山を結ぶ高速道路だ。この京奈和道を走っていると、一定間隔で写真のような「どんぐり街道」という標識が設置されていることに気づく。

京奈和道を走行中に見た「どんぐり街道」の標識(筆者撮影)

開通時に、どんぐりの実をつけるブナ科の樹木を植栽したことから名付けられたもので、NEXCO西日本のホームページ上に掲載された「事業評価」には、「現在、どんぐり街道の名が定着しています」と記されているのだが、どうであろうか。

世界に知られる「SHIMANAMI」

愛称が定着している高速道路で、「しまなみ海道」の右に出る路線はないだろう。広島県尾道市から、因島、大三島などの瀬戸内の島づたいに、愛媛県今治市までを結ぶ「西瀬戸自動車道」は、その風光明媚な景観もあって、しまなみ海道という名がすっかり定着した。

しまなみ海道には、新尾道大橋を除いたすべての橋に歩行者自転車専用道(原自歩道)が敷かれており、多島海の絶景を見下ろして走れることからサイクリスト(自転車愛好家)の間で人気が上昇。サイクリストの聖地となったことも、「しまなみ」の知名度を上げた大きな要因である。

自転車レーンが整備されるしまなみ海道(写真:よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

サイクリストは、「しまなみを走ってみたい」とはいっても「西瀬戸道を走ってきた」とはいわないだろう。海外で愛読されている旅行ガイド『ロンリープラネット』や『ミシュランガイド』でも紹介され、「SHIMANAMI」は今や海外のサイクリストからも熱い視線が注がれている。

高速道路の愛称が自転車の力で拡散されたというのは、なかなか前例がないユニークな事例だ。なお、国土交通省のHPでは、この自転車道の名称を「しまなみ海道サイクリングロード」としており、「しまなみ」はもはや愛称ではなく正式名称となっている。

わが国では、国土の骨格となる高速道路はほぼ整備されてきたといえる。しかし、まだまだ高速道路網の整備・拡充の計画は目白押しだ。また、コロナ禍が収束し、再びインバウンドの誘致に力を入れるとなれば、現在の高速道路により魅力的な愛称がつけられることもあろう。たかが名前、されど名前。そんな視点からも高速道路に注目していきたい。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、NPO産業観光学習館専務理事、京都光華女子大学キャリア形成学部教授、リベラルアーツ・ジャーナリスト。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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